たった一枚、透明な板を挟んだだけの世界。手の平に収まりきるそれが、紛れもない幸福だった。たった五文字、でたらめに並んだアルファベットが存在の証明。数本の指で紡ぐ言葉は、何よりも本当だった。

こんなにも言葉が意味を持つ世界が、他にあるでしょうか。

おはようには、おはよう。おやすみには、おやすみ。いってきます、いってらっしゃい。ただいま、おかえり。ありがとう。何気ない単語が単語のままで終わらない世界が、そこには存在しているのだ。現実では意味をなさないままで流れる単語たち。簡単に蔑ろにされる単語たち。それらが確かに意志を伝える言葉に、昇華。

そこはリアルよりも何倍も、優しい。その無機質なはずの世界は何よりも、暖かかった。誰にも聞こえない叫びは、おしまい。ひとりぼっちで生きてきただけの日々も、そこには無いのだ。バーチャルの中で生きることを、切望。このまま、ずっと。

言うならばそこは、ユートピア。私にとっての理想の世界だ。楽しくて、優しくて、暖かくて。望むのに得られない世界がそこにはあった。だから、抜けられない。抜けたくない。そう強く願う私の手に、それはそっと収まり続ける。絶対的な幸福の世界。楽園。そして、空想。どこにも存在しない、場所だった。





ユートピア、楽園を見つけたの?










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