秋の小さな連休の真ん中。学校は当然のように休みだと言うのに、俺は一人そんな場所に居た。今回ばかりは別に補習があったわけでも呼び出されたわけでもない。ただ、ちょっと忘れ物。大したことではなかった。だから別に誰と行くでもなく、一人で俺は教室へと向かう。そして手早く用件を終えて帰ろうとした。別に夜ではないし、外だって校舎内だって明るい。けれども、普段あんなにも様々な音が溢れる空間からそれが消えているのは、あまり心地が好いものではなかった。だから、早くこの場からは去ってしまいたい。まして、先程まではあんなに聞こえていたはずの運動部の声すらが届かないのだ。心地の悪さは強調される。けれどもそのことは、極力気に止めないようにした。お昼だし、休憩かな。それ以上の思考は停止。同時に歩み進めていた足も、停止。

「蜜蜂?」

校内に、飛ぶ。時期から、場所から、あまりにも不自然な一匹の昆虫。こんなときに校舎で見るなんて珍しいこともあるものだ。こんな、不自然に音の消えた校舎で蜜蜂の羽音を聞くことがあるなんて。そんな違和感からの確信。蜜蜂の前進に導かれるようにして、俺の歩みも再開。


「本当は蝶の方が上品で良かったと思うんですがね。ほら、君、あれでしょ。蝶が舞ってているぐらいじゃあ気付かないと思いまして。」

にこり。放って置けば良いものを追いかけてしまって、俺は遭遇。そして溜め息。多分彼がいることなんて分かってた。それにも関わらず蜜蜂を追ってきてしまった自分とこんな所に居る彼に、溜め息。

「何、骸。こんなことして何の用だよ。」
「誰も居ない教室で二人切りだなんて、密会みたいですよね。」

キャッチボールは成立しない。彼とはだいたいそうだ。答えたくないこと、答える気がないこと、なんて彼はいくら質問をぶつけようとも華麗にスルー。きっとこれもその一つなのだろう。言う気なんて無いから、言わない。単純、明快、ある意味とても分かり易い奴じゃないかと俺は割り切る。そうでもしなきゃ、彼の相手なんてしてられない。

「なんで、密会?俺とお前が密会する意味なんてないだろ。それからこの静けさ。どうせまたお前だろ、早く戻せよ。」
「……君は、そんなこと言うんですね。」

与えられた発言の場を存分に発揮するかの如く、俺は一気に彼に伝えるべきことを口にした。彼は静かにそんな俺を見つめて、溜め息。なんで俺がお前にそんな呆れたような顔をされなきゃならないのか。そう思えば縮められる距離。


「良いじゃないですか、密会。好きな人と二人切りのそれなら尚更。」


不意の彼の言葉に思考は停止。そんな俺に陰がかかる。けれどもそれは一瞬、ほんのいちびょう。チュッと小さなリップ音。それが消えると同時に音は帰る。溢れる、音。運動部の挨拶、かけ声。自然の鳴き声。こんなにも音があったら見つからない。俺が探す音は見つからない。お前、ずるいよ。小さく口にした言葉は教室に響く。独りきりの教室に、よく響いた。






逢瀬











ついったーより、『「昼の教室」で登場人物が「密会する」、「蜂蜜」という単語を使ったお話』

100912




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