もう、夏は終わった。三年生も引退した今、25×13の長方形にはなんだか異様なまでの寂しさを覚える。日が暮れるのも、早くなった。練習が終われば、すぐに部員を追い出す。そしてすっかり日が暮れたプールサイドを私は一人、戸締まりをして歩いた。ミーティングが終われば、最後には部長が全ての鍵を閉める。それがこの水泳部の決まりであり、私の日常だ。ジャラジャラ、鍵が鳴る。コツコツ、歩く音は一つじゃない。

「やっぱりさ、部長だからと言って女の子が最後まで残るのは、俺はどうなのかと思うよ。」
「あれ、部長?」
「違う違う。今はもう部長は俺じゃなくて、お前。」

シャワー室も更衣室も管理室も鍵は締め終えて、後はプールの入り口だけ。そう思ってプールサイドを歩いていれば、不意に人。軽々と会話。その相手は、ついこの間までの部長であり、私の思い人である先輩だった。

「どうしたんですか、先輩。」
「ん、教室で勉強しててそろそろ帰ろうかと思って出てきたら、まだプールに明かりが見えたから。」

部長がいるかと思って来てみた。なんて、彼は笑う。だから私も笑って、そのまま、嬉しさに身を任せて、口走る。彼も知っていて言うのだから、私だって知っていて言ったって良いはずなのだ。


「先輩、好きです。」


初めてなんかではなない言葉。それに対して彼も、頷いて笑うだけだ。私が先輩を思っていることを、先輩ももっと前から知っている。私はもうとっくに、彼に振られていたのだ。振って、振られる。振った、振られた。単純にそんな関係。だから答えなんて分かっていての告白。そのことは、彼も私も全部全部分かり切っているのだ。でも、分かっていても繰り返したい。繰り返してしまう。繰り返せることは幸せだって、思うんです。

「先輩、残念ながら飴は、水に入れたってラムネのように簡単には溶けませんよ。」
「…でも、いつかは溶けるよな。」
「はい。だから、それまでです。」

私の言葉に不思議そうに返す先輩。それに私は力強く頷き返した。そしてジャラジャラ、また鍵を鳴らしながら彼のもとに一歩ずつ近付く。キラキラ、反射。夜のプールに、まだ残る校舎の光が揺れた。全て幻想のような錯覚。綺麗だと思う。幸せだと感じる。彼に出会えた場所はどうしたって、私の中では特別な場所なのだ。だから、振られたのは事実。でも、それで終わりにはしない。また一歩私は踏み出す。今度はプールに近付けば、伸びる手。触れる。今は掴めないことなんて、私だってもっと前から知っている。だから、私はそれに笑った。


「でも、待ってますから。それまでにちゃんと、すくい上げてくださいね。」






オンリィスィミラ











ついったーより、『「夜のプール」で登場人物が「振られる」、「飴」という単語を使ったお話』

100908




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