「怖いんだ。」


そう呟く彼の口を、どうにして塞ごうか。そう泣きじゃくる彼の涙を、どうにして止めようか。震える彼の肩を引き寄せることは簡単だ。同じ部屋、向き合う彼。届く距離に居る彼に触れることは赤子の手をひねる如くに容易いことである。しかしそこにある明確な拒絶。無防備に晒しながらも根本では受け入れることも受け入れられることも、彼は何もかもをも拒んでいる。流れる涙は染みる。自ら覆う手のひらに。彼の瞳から流れ出した涙は、全て彼の手の内だった。彼一人で完結する世界。君はそれを望むのかもしれないけれども、生憎、俺は違うよ。覚悟だって出来ている。それを君が求めるかは分からないけれども、俺自身の答えはひとつだから。俺はそれに従うよ。素直、従順、聞き分けが良いなんて、とんだ勘違い。

「俺は、君と生きるって決めたんだ。君が何を考えているかはだいたい分かるし、否定はしない。でも、俺の思いを否定させるつもりは微塵もないよ。」

俺の言葉を確かめようとしたのか、一瞬緩んだ彼の手を俺は捕まえる。そして涙で濡れる指先を絡めとって、共有。君一人では完結など、させない。真夜中、人工的な明かりは消えた中で二人を照らすのはカーテン越しの月だけだ。それが自身の行動への背徳的な思いを浮かばせるようだが、それは全ていらない感情のはずである。そこにある思いは恋とか愛とかで形容しうる感情ではない。けれども明確に存在する、それ。君を思う。君の涙を止める術を求める。確かなものはそれだけだ。だから俺が従うべきもそれのみである。ねぇ、それが全てでも、いいでしょ。


「お前を失うことが、怖いんだ。」






願うは、君と共に世界を紡ぐこと










ついったーより、『「泣き顔、手のひらに指を絡める」キーワードは「真夜中」』

100825




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