彼は優しい。それはもうとびきり、残酷なまでに。そしてそれは意識せずともに発揮されるのだ。多分、それが彼の自然な姿。そうしない方がおかしい。不和をうむ。彼の優しさとはそんなものなのだ。

(全く、佐藤君は優しいんだから)

今だって俺にまで、無意識の気遣い。中の休憩室では所謂ガールズトークが繰り広げられていて、男二人は外に退散。煙草を吸う彼の横に俺は居た。けれども煙は俺には届かない。それは絶対。なぜなら彼は、いつも風下を選んで立つからだ。ふざけて、怒って、煙を浴びせることはあったって、通常時はそうしない。それが彼の普通だ。人だって選ばない。誰だろうとそうする。それが彼の普通なのだ。善意には善意をもって返すし、悪意にだってそれほどの悪意は向けない。愛しい人への優しさは少し傾くけれども、それだってそう多くはない。愛しい人へしか、そうしない。そんな俺とは違うのだ。だから、残酷。

「全く、なんで君はそんなに誰にでも優しいんだろうね」

にこりと微笑んでそう吐き出す。そう、吐き出せば、彼も煙を吐き出した。そして小さく小さく言葉にする。

「俺よりもお前の方が、案外優しい奴だって思うがな」

煙によって、それは隠れる。きっとただの照れ隠しだ。けれども、滲んだ。涙が、滲んだ。彼の吐き出した煙で、滲んだ。それは当たり前だよね。そう言ったら、調子に乗るなと蹴られてふらついた。けれども、当たり前なんだ。だって俺は優しくないから。彼みたいに優しくはないから。彼にだけ、与えているのだから。滲む。涙が、滲む。全部全部彼が悪い。ふらりとバランスを崩した俺に彼はまた優しく手を伸ばして、引くから。一瞬だけ交わって、俺たちは中へと戻った。優しく、笑う。嗚呼、優しさは毒だって気付かないまま、君は今日も笑うんだ。







無知である君の罪












100705




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