二人切りになることは、少なくない。キッチンでも休憩室でも更衣室でも、意図せずとも二人切りになることはあった。今だって、そうだ。俺と彼しかいないキッチン。これは仕組んだ訳でも何でも無かった。ただ単純に、偶然、運命的に。

「……相馬、」
「なーに、佐藤君」
「重い、どけ」

キッチンの片付けも終わりこの場を後にしようか。そんなときに彼は口を開く。そんなときに俺は寄りかかる。俺よりもいくらも大きい彼の背中に寄りかかれば、それは不安定に揺れることはない。ただ単純に温かいだけだ。ぐらぐら、ぐらぐら。不安定に揺れてしまえば、良いのに。

「佐藤君、佐藤君」
「なんだよ」
「君ももっと周りを見た方が良いよ」

にこりと俺はそう笑って言って、触れていたお互いの背中を離した。そんな俺の行動に彼は不審な視線を注ぐが、注ぐまでなのだ。何一つ気付きはしない。ぶれない。揺れない。俺が揺らさない限りは、彼からはきっと絶対ないのだ。悲愴。安堵。嫉妬。あい。そこにある感情は一つじゃない。感情は一つじゃないけれど、思いは一つなのだ。だから、揺らす。ぐらぐら、ぐらぐら。倒してしまう覚悟はないから、不安定に揺れるだけで良い。でも不安定には揺れて欲しい。そう願って口内に呟く。


「片思いは君だけじゃないんだよ」






ベクトルの行方











100601




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