「やっぱりさぁ、時々考えちゃうんだよね」
夕暮れ帰り道、辺りには俺たち以外誰も居ない。二人肩を並べ歩くそんな中で、不意に彼が口を開いた。しかし俺には意味が分からない。だから何も言わずに見つめれば、彼は珍しく少し悲しげに笑った。
「もしもさ、俺か宮村かどちらかが女の子だったら、っていうか俺たちが異性ってやつだったらさ、違ったよねって。」
何がか、なんてことは聞かなくても分かった。けれども有りすぎて、聞かなければ分からなかった。だからまた俺は何も言わない。言わなければ彼は楽しそうに笑って言う。冗談でも言うように、楽しそうなふりをして。
「こういう風に一緒に帰ったって、違ったよな。手を繋いで別れ際にはキスをして、なんて少女漫画の世界の話かよ!」
あははは、なんて笑い声をあげてつっこみを入れるように彼は俺の胸を叩いた。そんな無理して笑っちゃってさ、馬鹿みたい。そんな簡単に自己完結しちゃってさ、馬鹿みたい。そう思った俺は彼のその手を捕まえた。そしてぎゅうっと握ってやる。馬鹿みたいに。
「何。手、繋げないの?」
驚いたように俺を見つめる彼に、俺はにこりと笑いかけてやった。だって、馬鹿なのだ。勝手に一人で無理だって決め込んで平気なふりをする。そんな必要なんてこれっぽっちも無いのに。けれども次の瞬間には本当に幸せそうに笑うから、彼よりも馬鹿なのは自分の方だと自覚。だって彼のそんな笑顔がたまらなく愛おしくて、そっと手を伸ばしてしまうのだから。
もしもの世界でなくたって
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