「正臣くーん、何その顔」

嫌な人物に会った。最も憎むべき人でありながら、どうしても嫌うことが出来ない人物。この時点で俺のテンションは最悪。それを俺は分かり易く伝えようと相手を睨みつけるのだが、その意図は全く伝わらなかったらしい。

「目の前に臨也さんが居るからじゃないですか」
「あ、何?嬉しすぎて、な感じ?」

そう言ってにこりと笑う目の前の人物に苛立ちながらも、俺は思いっ切り愛想笑いを返してやった。そうですね、なんて思っても居ない言葉を口にしながら笑えば、彼もただただ笑うだけ。不自然な笑いしか存在しないこの空間は、違和感の塊でしかない。しかし、この違和感の塊である空間はまた別の違和感によって乱される。飛んできた自動販売機によって。

「あらら、シズちゃんに見つかっちゃった」

地面に突き刺さる自動販売機を見ても、目の前の彼は笑うだけだ。違和感、と言ったって彼にとってはこれは日常の一部でしかないのだから。しかしここで最悪だった俺のテンションはさらに下がる。自動販売機が現れたと言うことは、彼のとる行動は決まっている。逃げると言う行為、只一つに。ああ、苛々する。声をかけてきたのは向こうなのに、こうして居なくなるのも向こうの方からなのだ。別にせっかく会えたのに居なくなってしまうのが寂しい。なんて乙女心からでは断じて無いけれども。それでもいつも振り回されっぱなしなのは嫌なものだ。そんなことを思いながら俺は走り出す彼を見送ろうとした。しかし、不意に右手が引っ張られるような感覚に襲われる。

「逃げるよ、正臣君!」
「はい?」

訳が分からなかった。こんなのって完全にとばっちりだ。平和島静雄から逃げる折原臨也、と紀田正臣。俺は今無理矢理危険に巻き込まれたのだった。何故、こんなことをするのか。走りながらにそう問いかければ、本日一番の笑顔で彼はにこり。


「だって、正臣君は俺のこと大好きじゃない」


苛々する。何にってその言葉を否定出来ない自分自身に。けれども今繋がれる手だけはどんなに否定しようとも事実であるから、俺はそれをぎゅっと握り締めた。






これって愛の逃避行?











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