「正臣、キスしよう。」

二人切りの部屋。唐突な僕の提案に、彼は一瞬ぐにゃりと顔を歪めた。しかし、それは本当に一瞬だ。彼をよく知る者でも無い限り、そんな些細な変化には気付かなかっただろう。それほどまでに自然。そしてそれほどまでに彼にとっては触れられたくない核心の部分。

「なーに言ってるんですか、帝人くーん?慣れない都会の空気に当てられちゃった?それとも俺のこの溢れんばかりの色気がそうさせているのなら今ここで謝ります。俺は生憎幼なじみのそれも性別男には興味が無いんです。俺が興味があるのは、」
「正臣、分かってるんでしょう?」

あくまでいつもの調子を決めて返す彼に、僕はそれを許さぬように真剣な声色を向ける。すると彼は笑顔を貼り付けたままに静止。それを僕はチャンスだとばかりに彼との距離を縮めた。そして手を伸ばし彼の頬に触れてストップ。お互いにお互いしか視界に入らないようなギリギリの距離だ。

「正臣」

そんな中で僕はまた先程の調子のままで彼の名を呼ぶ。すると無理に視線をそらそうと悪あがきをしていた彼も、諦めたかのように僕だけを見た。卑怯だ。僕の取っている行動は最低最悪の行動だ。それは分かり切っていることだった。彼には求められたら断ることなんて出来なくて、相手が僕なら尚更そうであると言うことぐらい明確だったのだ。しかし、それを知った上で利用する。つけ込む。最後の選択は彼に任せた振りをして、逃げ場の無い場所へと追い込んだのだは紛れもない僕自身だ。

「……帝人」

小さく僕の名を呼んで彼は目を閉じる。これ以上進んでしまえばもう戻れない。それも分かり切っていることだった。けれどもこの胸に渦巻く感情。愛と呼ぶにはあまりにも醜く、しかしそれ以外のものに例えるにはあまりにも尊い。そんなそれは、独りきりで抱え込むにはあまりにも重過ぎたのだ。






愛なんて所詮











100221




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