「歩みを止めちゃいけないよ。君は常に進み続けなければいけないんだ。」

そうやって、歩く道には何もない。何処に向かうのか、何の為なのか。そんなことすら何一つ分からなかった。ただ、一つ。後ろから突きつけられる刃物の痛みを感じないのは、俺が歩み続けている証拠。それだけが事実で、どうしようもない現実だ。

「止まってしまったら、君は化け物ではなくなってしまう。だから進まなきゃいけないよ。君を人間と言うくくりの中に、入れてしまいたくはないからね。」

優しげな口調で、後ろの男はそう言う。いや、優しいと言うよりも弱々しいの方が正しいのかもしれない。そうであれと望むのに、そうでないからなのか。それとも、言葉なんて何の意味も持たないのか。それとも、それとも。

「分からねぇよ。俺は常にただの人間としてありたい。あろうとしている。なのにどうしてお前はそれを望まない。」
「…少し誤解があるようだから言っておくけど、俺はただの人間で良いんだよ。君だけは人間と同じじゃいけない。」

それは羨望ではない。他者への身勝手な願いだ。それならば余計、どうして。浮かぶ疑問に足を止めれば、彼は先へと促した。感じる筈の痛みは通過を要求される。

「人間は、人間を愛すでしょう?人間は、化け物は愛さないでしょう?だから君は化け物でなければいけないんだ。沢山の人間の愛が君に注がれるなんて、そんなの、いらないんだよ。」

痛かった。それは突き当てられた刃物が原因か。痛みは止まない。流れない赤の代わりにつたう液体の名前は知っていたけれど、口にすることも出来なかった。しかし、感じるようになってしまった痛み。それを見過ごすことなんてもう出来ない。痛い、いたい、居たい。人間のお前がただ一人化け物の俺を選ぼうと言うのなら、俺は人間としてただ一人、を。


「人間の俺が人間のお前を愛すという選択肢はないのかよ。」






人でない者を人である者がではなく









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