「さっきそこでシズちゃんに会っちゃってさ、」

ぐちぐち、ぐち、愚痴。零す言葉は本当に愚痴なのか。答えは簡単、本当は違う。それに相応しいのは、同じ漢字二文字でも平仮名三文字のあの言葉。そんなことはきっと彼だって知っている。でもね、きっとまだ無自覚。無自覚だからこそ、僕はわざとらしく微笑んだ。

「でも、好きなんでしょう?」

ほら、ほら、ほら。普段、様々な否定が飛び交う中での無言はそれだけで肯定になる。時には口よりも目よりも、沈黙が多くを語ることもあるのだ。それなのに彼は口を閉ざす。そんなことにも気付かないなんてね。いや、気付いてしまったから口を開けないのか。僕は今度は、笑った。嘲る。否、いとおしいんですよ。

「馬鹿じゃないんですか。」

無自覚。無自覚での惚気。自分の中の気持ちに気付きもしないでよくもそんなに恥ずかしい言葉を今まで紡げましたね。なんて笑えば、困惑。明らかな動揺の色が彼を染めた。上辺は平静。しかしそんなのは上辺だけなのだ。無自覚に気付かされて、知識を変えられて、昨日までとはさようなら。その饒舌さは、違いますよ。隠すどころかどんどんと全てを暴く。分かるでしょう、少し考えれば簡単に。分からない、ぐらいに全てが変わったんですか。自覚と共に、全てが彼に。なんて、ああ、馬鹿だ。あなたはどうしようもないぐらいの馬鹿ですね、臨也さん。

「でも、それ故に愛おしいんですよ。全てが彼に染まりきったあなたを、外側からどんどん追い詰めてやりたいんです。僕は。」

にこっと笑ってやれば、滲む。恐怖、知らない。怒り、知らない。でも、あい、でしょう。あなたが彼に抱くそれも、私があなたに抱くそれも、あい。おなじですね。今度は優しく、優しく言ったのに。そんな、動揺。笑ってしまいます、よね。





どちらも愛と、認めなさい









100919




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