「夢の中で俺は君の首を絞めているんだ」

こんな風に。そう口にして、俺は身長の割には細い彼の首に手をかけた。きりきり、きりきり。馬乗りになった彼の上でぐっと力を込める。それなりに、本気。毎日ナイフを手にする俺は人並み以上には握力のある方だろう。その手に、力を込めるのだ。

「かはっ、」

しかし彼からは小さく咳が漏れるだけ。もがかない、当然、しなない。物騒な物言いをするようだけれど、苦しませ方ぐらい知っている。どこをどうしたら苦しむのか。どれぐらいの力を込めればその命を止めることが出来るのか。知識の上でだけれども、俺はそれらを知っていたのだ。なのに、通用しない。彼はいつも超える。俺を凌駕していくのだ。

「それでね、夢の中で俺は泣くの。君じゃない。俺がだよ。なのになんで今、君が泣くの。違う、それは夢と違うよ。なに、」

「お前が、泣か、な、いから」

首にかけた手は解かない。解かないまま、彼から零れる涙と言葉を集めた。違うでしょう、苦しいからでしょう。俺が求めるのはそうなのに、彼は全然違うことを口にする。だから、また手に力を込めた。違うよ。君のことが憎いんじゃなくて、俺は悲しいんだよ。

「死なないんだね。死んでは、くれないんだね。君は夢の中でもそうだった」

そう言って、俺は再び彼の首を締め上げる。さっきよりも、ずっとぐっと、本気。あ、苦しいって顔してるね。でもそれも違うんだ。俺が求めるものとは違う。なのに、夢の世界と現実は一緒なのだ。夢で死なない彼は、ここでも死んでなんてくれない。だから俺はまた諦める。諦めて、手は絡めたまま彼の胸に顔を埋めた。

「君を殺せない。これは愛じゃないよ。君を殺す。それこそが愛なんだ。君も分かっているんでしょう?分かっているからこそ泣いているんでしょう?」




君の手は俺を殺せるのに、俺の手は君を殺せない。このままじゃあずっと、片思いだね。








海底にて、君だけが溺れず













100729




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