「落ち着け、静雄」

今にも窓を蹴破ろうとする彼を、俺は両腕を伸ばしぎゅっと抱き締める。流石に人の目のあるところではこうはしないのだが、今は二人切りなので話は別だ。俺と彼の二人しか居ないこの状況で切れられたら厄介だし、何より彼が血を流す姿なんて俺は見たくはない。だから彼の額に浮く筋が消えるまで、俺はまるで幼子をあやすかのようにして優しく包み込んだまま名前を呼ぶ。ただひたすらに、優しく優しく。まぁ、包み込むと言ったってどうしても身長差なんてものは埋められなく、俺が彼の背に縋るような形になってしまうのだけれど。それでも根気強く宥め続ければ、不意に彼は何かが折れたかのようにその場に座り込んだ。

「……すんません、トムさん」

さっきまでの様子なんて嘘みたいに弱々しく呟く彼。そんな彼に俺は笑顔を向けてよしよしと撫でてやる。すると彼もまたうっすらと微笑みを見せるから、いつもの通り名の彼なんて、本当は存在しないんじゃないかと思う。だって彼は、こんなにも愛おしい。

「気にすんな。お前はよく耐えたよ」
「ありがとう、ございます…」

俺が笑えば、へにゃりと彼も笑い返す。この空間には恐怖なんてものはない。ただ、愛おしさが存在するだけだ。だから俺はそんな感情のまま、また彼を抱き締める。今度は彼を止める為ではなく、止められない俺の感情をぶつける為に。


「好き、だよ」






止めるけれども止まらない












10220




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