「本当に、馬鹿みたいだよねぇ。一体何だって言うんだよ」

ぽたぽたと生温かいものが俺の頬に触れた。零れ落ちた液体。いつもなら赤いそれは、無色透明だった。見上げた彼の瞳は濡れている。普段通りだったなら、間違ってもこんな追い込まれ方はしないのに、それが俺にそうさせない理由だった。彼の瞳を濡らす、彼の頬をなぞる、それが。流るる涙が。

「臨也、お前、どうした」
「あーあ。シズちゃんに心配されるだなんて、俺も末期だねぇ」

理由は知らない。それどころか、今の状況すら俺には理解出来なかった。路地裏、座り込む自分、見下ろす彼、涙。精神の崩壊。リミッターの決壊。彼が何かに悩み傷ついているのは分かるのに、俺にはどうすることも出来なかった。優しい言葉のかけ方を、俺は知らない。慰め方だって同じだ。それどころか、俺は彼のことなんて何も知らないのではないかと思わされた。だってこんなこと、無いと思ったんだ。彼が涙を流す。みせる。俺に。だから訳が分からず、しかし彼がひたすらに俺を掻き乱す。

「馬鹿みたい。俺、シズちゃんに、だって。だから止まらないの。そうならないことが悲しくて、止まらなくなったんだ」

涙でびしょびしょに濡らして、涙をぼろぼろと零して、彼はにこりと笑顔を作った。そして伸びた手が、涙で濡れた俺の頬を撫でる。優しく、優しく。そのまま引き寄せられれば簡単に唇は重なるのに、どうして感情はそうはいかないのだろうか。痛む、強く俺の心をもそれは痛める。気付けば涙を流すのは、彼だけじゃない。けれども気付かない俺たちのそれは、交わることなんてなかったのだ。


「俺、シズちゃんに、愛して欲しいんだって」






液体、なのに分離












100522




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