小さく俺の名を呼んで、彼は手を差し出した。俺はそれに特に何も考えないままで手を差し出し返す。条件反射と言うものだろうか。なんて考えていれば、彼は楽しそうに笑いながら口を開いた。
「やっぱ大きいっすね。羨ましいです」
当たり前だろう。俺は年も体もずっと大きい。そう思ってじっと視線を向ければ、重ねた手の小ささに驚いた。そして急激に背徳感に襲われたのだ。駄目だ。こんな小さくて、細くて、温かいもの。俺が触れたら簡単に、。しかし俺がそれを形にするより先に、彼が別の形を俺に示した。ぎゅっと、小さいながらも力強く俺の手を握ったのだった。
「そんな簡単には壊れませんよ」
一度優しく目を閉じて、にかっと彼はいつも通りの無邪気な笑みを浮かべる。そんな彼へと俺は、呆れて笑い返した。笑うしかなかったのだ。怒るのも泣くのも褒めるのも何もかもが違う。だから笑うしかない。そこに孕まれる優しい感情の名前を、俺は知らないから。だからぎゅっと握られた手を、俺もぎゅっと握り返して。空いた片手でそっと髪を撫でてやれば、細まる瞳。ああ、そうか。俺が彼に抱くこの思いはきっと、愛しいってものなのか。
重なる手に思う君
100503