「静雄」

突然呼ばれた名前へと、俺は慌てて振り返った。だって、おかしいのだ。俺の名前は平和島静雄。それ自体は紛れもない事実である。だから静雄と呼ばれること自体への疑問は一つも無かった。名前で呼ばれることぐらい、それなりに親しき仲ならばむしろ自然であると言えるだろう。だからおかしいのは別のところ。静雄。そうやって俺の名前を呼んだ人物に、あった。

「どういう風の吹き回しだ、臨也君よぉ?」

振り返れば、視界に入る彼に、俺は冷静を装って聞いた。すると彼はいつもみたいに余計な言葉を紡ぐでもなく、ただ優しく微笑むのだ。だから、余計に困る。いつもみたいな切り返しをしてくれば、俺だってそれに従えば良いだけ。なのに彼はそうはしてこずに、笑みだけを残してまた口を開くのだ。

「静雄」

まるで、他に言葉などは必要無いのだ。そう伝えるかの如くにただ紡ぐ。だから俺は何も言い返してやることなんて、出来なかったのだ。ただ自らを落ち着かせるように。そして、浸るように。そっと小さく目を閉じた。ああ、自分の名前はこれほどまでに愛おしさを孕むものだっただろうか。そんな馬鹿みたいなことを思いながらに。





君が呼ぶ名前










100420




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