息の仕方が分からなくなった。吸って、吐いて。そんな単純な行為の仕方すらを忘れてしまうほどに、今の自分には余裕が無かったのだ。どうして、どうやって、こんな状況になったのかは分からない。いや、正確には思い出す余裕が無かったのだ。ことんっと彼の首が横に折れて、頭は俺の肩の上。伝わる温度は心地好さなどをとうに越えていて、どうしようもない熱ばかりを俺に集めていた。顔が熱く、犯される。目眩がする。しかしそれらはどれも幸せだった。幸せがそうさせていたのだ。

「トム、さん」

恐る恐る、小さく名前を口にしても、返ってくるのは寝息だけだ。完全に眠りについている。そんな彼の頭に俺は自分の頭を重ねてみた。ことんっと彼を起こすことなどは決して無いようにと、そっと。そうすれば、彼の瞳は開くことなく、規則正しいリズムで刻まれる音だけが今の状況を語っていた。だから俺も目を閉じる。この幸せな時間の中に少しでも長く浸っていたいと願って。そうすれば、重なる彼からの言葉を聞いた。気がした。





あなたでいっぱい










100413




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