「、かもしれないね」

彼がそう小さく呟いたのは何時のことだっただろうか。分からない。分からないけれども俺は、それを聞き逃さなかった。そして馬鹿みたいに、一心に、その言葉を信じ続けてきたのだ。それが信じるに値するものだと言う保証は無かった。けれどもあの時、俺は感じたのだ。そして、決めたのだ。この人は俺が、と。

「正臣君、苦しいんだけど」
「わざとですからお気になさらず」

ぎゅっと後ろから抱きついて、離さない。細く華奢な腰だ。なんて言ったら怒られそうだから言わないけれども、こうして触れると彼は驚くほどに頼りなく感じられた。騙して、翻弄して、ぐちゃぐちゃにして。いつもの彼は偽物でこちらが本物では無いのだろうか。なんて思うけれどもそんなことは無いのだろう。感情なんて映さないようにして俺を見つめる瞳は冷たい。それを俺は悲しいなって思った。俺がじゃなくて、彼が。だから余計にそうしなければならないと思ったのだ。この人は俺が、と。無理矢理に塞がれた唇の隙間から、漏らすようにして俺は言葉を繋ぐ。俺が、なります。そう幽かにはっきりと。そうすれば彼は薄く笑みを浮かべて目をそらすから、俺はまたぎゅっと抱きしめる腕に力を込めて顔を埋めた。


「全部壊しても元通りに出来たなら、それは本物、かもしれないね。」
(それなら俺が本物に、なります。)






この思慕、恋慕?











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