彼の嘘を見破れない訳ではなかった。もう何年も、彼の嘘と真実とを聞いてきたのだ。それを聞き分けることぐらい、本当は出来ていた。全部を全部って訳じゃあない。どうしても分からないときだってあるし、分かると言ったって嘘を吐いているか否かぐらいだ。でも、分かるのだ。今彼が話す言葉が嘘だってことぐらい。感じるのだ。

(けれども彼の、本当の心には触れられない。)




嘘吐きと臆病者
うそつきとおくびょうもの




繰り返し、繰り返し。同じ日々だった。お互いにお互いを、言葉でも行動でも否定しあって拒絶しあう。罵声には罵声を。暴力には暴力を。馬鹿みたいに同じ繰り返しの日々を重ねた。けれどもその中に偽りが孕まれたのは、何時からか。彼の言葉が真実では無くなったのは、何時からか。彼が嘘を吐いていると言う根拠の無い自信を、何時からか俺は抱き始めていたのだ。

「シズちゃん、いい加減死んでよ」
「お前が死ね」
「大嫌いなんだ。目障りなんだ」
「そっくりそのままお前に返す」

ぐっと俺を壁に抑さえつける彼の手は強く、そして優しい。だから、嘘なんだ。狭い路地裏で俺の背には壁。俺のことを本当に殺したいと思うのなら、こんな絶好のチャンスは無いだろう。俺は逃げようと思えば逃げられるけれども、彼だって本気で殺そうと思えば殺せる。そんな距離に居るのに、そんな距離はこれ以上は縮まらなかった。こんな関係、馬鹿みたいだ。そうは思うのに止められない。お互いに、止めようとなんてしていないのだ。

「嫌い」
「嘘吐き」

何度も繰り返される不毛なやり取りの中で、知らず知らずの内に漏れていた言葉に俺は慌てて口を塞いだ。ずっと、続けてきたのだ。嘘だってことぐらい知りながらも、何度も何度も。だから気まずくなって視線を反らせば、頬に触れられ無理矢理彼の方を向かされた。そして彼は今言ったことをもう一度分かり易く言えと要求してくるけれど、俺にはそれは出来なかった。嘘だって知ってる。ずっと前から分かってる。しかしそれでも彼の本当の心に触れるのは、怖かったのだ。すると彼は俺の前でにこりと歪んだ笑みを、どこか楽しげで悲しい笑みを、浮かべた。そして、「臆病者」そう吐き捨てるようにして俺の唇を奪った。










(!)噛め!さまに提出しました。

100406




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