いつ、どんな時だって、彼は俺を見つけてくれる。どんなに人が溢れていようと、この街の中から必ず俺と言う只一人を見つけ出すのだ。人と同じとは思わないけれど、それほどに目立つ格好をしている訳ではない。むしろ格好の話をするのであれば、どうしたって彼の方が目立つだろう。なのに彼は俺を見つけてくれる。それが何故だか俺は嬉しかった。嬉しかったのだけれども、それは過去だ。
(違う、もんね。)
彼は俺を見つけてくれる。それは嬉しい。けれども彼が俺を見つける理由。それは俺が求めているものではないのだ。言葉にも形にもなって無くたって、それは明白なことだった。だからいつからか、嬉しいは悲しいに変わる。彼が俺を見つける瞬間にどうしようもなくなった。
(違う、なら、嫌だ。こんな感情を抱くばかりなら見つけて欲しくなんか無い。)
そう思うのに、心と現実はうらはらだ。思い通りになんていきやしない。気付けばいつも通りに俺を見つけた彼が近付く。どうしようもなくなる。どうしようもなくなった。
「臨、也…?」
俺を見つめる彼が不思議そうにそっと俺の名を呼んだ。そうだよね、シズちゃんには俺の気持ちなんて一つも分からないもんね。だから、不思議そうなのは当たり前だ。でも当たり前じゃない。俺のことが殺したいぐらいに憎いなら、駄目だよ。こんなことで動揺して、心配する素振りなんて見せてはいけないんだ。
「シズちゃん、俺ね、嫌なんだよ」
何が、何でか。そこまでは教えてあげない。俺は同情なんて求めて無いから。なのに彼があまりにも優しく俺の涙を拭うから、流れる涙は溢れるばかりだ。
(君が俺を見つける理由が愛ではなくて憎しみなのが、嫌なんだよ)
愛に傾け憎しみよ
100322