一には一を、十には十を。最低限それだけは返してもらわなければ納得がいかない。まぁ、俺が得をする分には一に対して十でも百でも返してくれて構わないんだけどさ。とりあえず、今の状況は俺には不服だ。俺が与えた見返りが、彼からは何一つとして返ってきていないのだ。だからそろそろ取り立てにでも行こうかな。そう俺は散歩にでも行くような調子で部屋を出た。

「シズちゃんシズちゃん、そろそろ払ってもらえないかなぁ?」

にこりと俺が笑えば彼の手に握られるガードレール。今さらそのことをつっこむ気は無いけれども、こちらはあくまで話に来ているのだからそれ相応の対応ぐらいしていただきたい。しかし彼は俺の言葉に眉間へ皺を寄せる。まだ手に持つ物を投げるに至らないあたり、彼も彼なりに冷静を装っての行動なのだろう。

「……お前から何かを借りた記憶はない。よって何かを返さなければいけない理由はない。」

彼は簡潔にそれだけを伝えると、手に持っていたガードレールを戻し俺に踵を返した。たぶん、仕事中。だから仕事仲間に迷惑をかけぬように足早に去ってしまおうとしたのだろう。そんな彼を大人になったなぁと思う反面、つまらないし俺の目的は達成されていないので不満を抱いた。だから俺は慌てて彼の手を握り引き寄せる。そうして耳元で、囁いてやった。

「こうして会いに来るのもキスをするのも何から何まで俺からだ。だからね、その分だよ。そろそろシズちゃんからしてもらわなきゃ納得いかない。利子分含めてしっかり請求させてよ。」

にこり、ぴしり。俺の笑顔とともに空気が凍る音がした。あーあ、今日もまた駄目か。全くシズちゃんったら照れ屋だなぁ、なんて言えば彼の手には元通り、ガードレール。にこり、今度は笑ったのは彼だった。ぴしり、今度は物が砕ける音だった。だから潮時だな。そう思って俺はひらりと身を翻して彼との距離を開く。そしてこちらからもにこりと笑顔を返して、彼から逃げるようにして走った。


「いつかはちゃんと、返してくれなきゃ駄目だよ。借金取りさん?」





もしもし愛が未納です











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