涙を流す子供を見つけた。別に普段なら、泣いているからと言って関係無い。だから、何だ。たったそれだけで、それで終わりだ。俺が愛すのは人間であって、一個人では無いのだから。泣いている子供を慰める義理などはまったくもって無い筈だ。

しかし、惹かれた。名も知らぬ、何処の誰かも分からない。そんな子供の涙に強く惹かれたのだ。


「どうしたの、君。」


出来る限りの柔和な笑みを浮かべて、俺は近付く。その子供は俺を一瞬強く睨みつけるが、逃げるつもりは無いようだ。俺が何気なく隣に腰を下ろしても、適度の警戒心は持っているもののその場を離れることはしなかった。隣に座り自分のことを見る俺を、不思議そうに見つめてはいたけれど。そんな彼を改めて近くで見て、俺はあることに気付く。彼の体には何ヶ所にも渡って包帯が巻かれていたのだ。一瞬家庭の問題を思い出させたが、目立つ所にも傷があるあたりその線は薄いだろう。むしろ喧嘩や事故の方が妥当だろうが、そうも見えない違和感を感じさせるものだった。事情を聞いてみようかとも思ったが、別に初対面の何の関係も無い子供の傷を抉るような趣味は今は無い。それにそこまで踏み込む必要性は無いと感じた。だから俺は、涙を止めようと必死な彼をただ横で見守っていることにする。催促をするでもなく、ただ彼が口を開くのを待つ。自分らしくはない自分の様子に、一人心の中で苦笑を送った。


「ダメ、なんだ。」


どれほどの時を二人で過ごしてからか、唐突に目の前の彼は口を開いた。俺はやっと聞けた彼の声に不思議と懐かしさを感じながらも、耳を傾ける。すると彼はぼろぼろ、ぼろぼろ。先程よりも大粒の涙を流しながら言葉を続ける。

「ダメ、なんだよ。思ったとおりにいかない。何も守れなくて、傷つけることしか、できない。」

言いながらぐっと握る拳。そこには血がにじむ。どれだけの力で握ったら、そうなるものなのか。そう考えながら、俺は笑った。当たり前、だったのだ。この子供に惹かれること。懐かしさを感じること。全てが必然、そして運命の悪戯か。出会うはずの無い時に生きる彼と、出会うだなんて。

でも、気付いてしまえば簡単だった。俺にはこの子供を慰める義理がある。だって愛しい人を泣かす原因は、自分にだけあれば良いのだから。


「大丈夫、俺が愛してあげるから。」


俺はぎゅっと目の前の愛しい彼を抱き締めて、囁いた。どこかで遠い日の約束となるように祈りながら、悲しみを拭い取って。そんな俺を訳の分からないと言った表情で見つめる彼だったが、気付けば、彼の両腕は俺を掴んでいる。もしかしたら彼もどこかでは分かっているのかも知れないと思えば、面白くて仕方なかった。今もこれぐらい素直だったら可愛いのにね、なんて思いながらに俺は、まだ涙を流す彼の瞳にそっと唇で触れるのだった。





運命だから、安心してね












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