こんな時間に突然の来訪者。俺は苛立つ気持ちを必死に抑えてドアへと向かうが、そんな自身の賢明な判断を一瞬で後悔することとなる。

「はっぴーばれんたいーん!しーずちゃんっ!」

楽しそうな嬉しそうなからかうような声とともに俺に降り注ぐは甘い、甘い。例えとか比喩とかとは違う。本当にただの甘い物体だ。それでいて熱くてベタつく、その正体は溶かしたばかりのチョコレート。それも尋常な量ではなく、タライ一杯分はあるであろう。いや、タライ一杯分確かに存在したのだ。だって目の前の男がにやりと笑い手に持つそれは、タライだったのだから。

「俺からのチョコレートだよ、なーんてことは言わないよ。君に物をあげる筋合いは無いから俺が美味しくいただくつもりです」

笑みを絶やさぬままにそう言う彼の語尾には確かに星がついていた。そうとしか聞こえない声色だった。ベタつく感覚に必要以上に甘ったるい匂いは不愉快だ。けれどもそれ以上にこの目の前の男が何よりも不愉快だ。そう思った俺はにこりと笑う。すると彼もにこりと笑い返して舌を出し、ペロリと舐めた。俺の頬から首にかけてを優しくじっくりと。瞬間、ぞくりと背中を一筋何かが走り抜けるような感覚に、どくりと胸の奥で何かが騒ぎ立てるような感覚に、襲われる。全く、気持ち悪い。


「覚悟は出来てんだろうなぁ?」
「どっちが?」


にこりと、笑う余裕はもうなかった。そこにある明確な感情のままに、己の本能に、従うだけである。その後どうなったのか、いつも通りかそうじゃなかったか、なんて。別に他言するような内容では、ない、はず。






あまさまみれ












100216




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