始まりもしないものを終わらせることなど出来ない。そう、まだ始まってすらいないのだ。常識的に、倫理的に、様々なものが俺を縛り付けるから。だから、始めることすら俺はしていない。スタートする前からその過程を、そして行き着く先を、考えては踏みとどまる。それしか出来なかった。必ずしも、待つ未来が明るいとは限らない。いや、必ずや、茨の道であるだろう。こんな道に生きて、今さら常識やら良識やらを尊しとして生きようとする姿は、滑稽かもしれない。しかしそれらを捨て生きるなどと言う道を容易に選択出来るほどに、俺はもう子供にはなれなかった。愛の為に何かの為に、必死に生きようとする姿を否定する気持ちはさらさらない。しかし自分にはそれは出来ない。ただ、それだけの話なのだ。俺は自ら進んで枠組みの中に入り生きようとしている。自分の力量だけは嫌と言うほどに知っているから、それを超える出来事へは手を伸ばす気にはなれないのだ。


(だから、これは、有り得ない。)
(気まぐれ、だ。)





(本当に、気まぐれ?)


縋るように伸ばされた腕に、俺は返す。全力に全力で、なんて。力量を超えて、許容範囲をオーバーしたものに手なんて伸ばしたくは無かったのに。責任、なんて取らせらんねぇのにな。なんてそう、小さく小さく呟くは自分自身へだ。分かっているつもりだった。分かった上で生きてきた道のはずだった。なのにそれがこうも簡単に覆されるときが来ようとは誰が思っただろうか、なんて。こんなにも単純で、複雑怪奇な感情の中に、溺れていく自分がまだいるものなのかと他人ごとみたいに思った。もう始まりは、目と鼻の先だ。





(愛、とか、笑えねぇべ。)






決して迎えたくは無かった始まりを迎えること













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