追い込んで、追い込んで、追い込まれる。彼の逃走ルートから、俺は路地裏に誘い込まれているのだと理解した。けれども理解したから何だ、って話だ。誘われてる?それで結構。誘っているなら乗ってやろうじゃないか。一発ぶん殴りでもしなければ、この苛々は収まりそうにもない。

「いーざぁーやーくーん。こんな所に逃げ込んで、後ろは壁。袋の鼠ですよぉ?」

にこりと、一瞬で作り笑いだと分かるそれを彼に向ければ、彼は楽しげに笑う。意外と知識あるね、なんてからかうような言葉に簡単に俺はのせられて。ギリギリのところまで追い込めば、完全に彼の背中には壁だ。俺の拳がその壁にめり込めば、ぱらりとコンクリート、にこりと彼。

「さて、何故俺はシズちゃんのことを誘い込んだのでしょう?」

こんな絶体絶命であろう状況で、彼はまるでなぞなぞでも出すように軽やかに問う。手には何も握らず丸腰であることをアビールするかのように、ひらひらとさせながら。その時点で俺は違和感に気付いたが、訳は分からないままだった。

「物分かりの悪いシズちゃんに特別にヒントをあげようか。1に、こんなに狭ければ君はお得意の武器を振り回すことは出来ません。2に、俺はナイフを使おうと思えば使えるのにそれを出そうとはしていません。つまりは二人とも手には何も持たない状況となっています」

わざと少し丁寧な口調で話す彼に苛立った。けれどもそれよりも疑問が上回った。質問の意味と言い、ヒントの意味と言い、彼の意図するところが一つも分からなかったのだ。しかし後から考えればその一瞬の躊躇が良くなかった。結局、俺は彼の思い通りに動いてしまったのだ。一瞬の躊躇のその瞬間、彼は俺をぐっと引き寄せて、耳元で囁く。


「答えは簡単。生身の手で君に触れ、生身の手で君に触れて欲しかったからだよ」


彼の声がぞくりと響く。何を言っているのか、理解しようと考えた時には彼は俺の耳に噛みついていた。あまりの衝撃につい力がこもり、砕ける壁とそこから逃げ出す彼。「なーんてね!」そう笑いながら去っていく彼の策略に、俺は完璧にはまっていたのだ。





袋の鼠は君の方











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