「本当に、本当にすんませんでした…!」

俺は出来うる限りの謝罪の言葉を、ただひたすらに並べた。目の前に座る人物の手だけはぎゅっと握ったままで。傷口に直接触ることはかなわない。けれどもどこか彼の一部にでも触れていなければ、気が気でなかったのだ。

「俺が油断してたばかりに、俺が弱いばかりに、トムさんに怪我を、」
「いやいや、不注意だったのは俺の方よ?」

いつもなら避けて見ているのにそれをしなかった自分が悪い。それに大した傷じゃないから大丈夫だ。そう言って彼は笑うけれど、俺にとってそれは何の気休めにもならなかった。きっと避けてくれているから平気だなんて、そんな俺の甘い考えが悪かった。傷だって、額に大きく貼られたガーゼ。何が大した傷じゃないのだろうか。当たったのは俺が投げたもののほんの破片だった。けれども打ち所が悪ければ大惨事になっていただろうし、もしそのものが直撃していたらと思うと怖かった。全部自分の責任だ。それは分かり切っていることで、分かり切っているからこそ辛かった。彼が傷付いた原因は明確に自分。そんな事実にただ涙だけが溢れる。ぼろぼろ、ぼろぼろ。情け無いことにそれは止まらなかった。

「ごめん、な、さい…」
「……静雄、」

涙を流したままにただひたすら謝り続けていると、急に頬に衝撃を受ける。叩かれた、そう認識するにはあまりにも優しい衝撃を。

「本人が大丈夫って言うんだから大丈夫なんだよ。それに今は違う。傷口なんかもう痛くない。」

優しく彼は言葉を紡ぎ、優しく俺の手を握り返した。そして空いた片手で俺の目尻をなぞり、そっと涙を拭うから。俺はそんな彼の行動を前にびたりと静止。


「お前が泣いているから、胸が痛む。お前を泣かせている原因が俺にあるのが、嫌だ。分かったら早く、泣き止んでくれ。」


溢れる。そう思った感情を俺はぎゅっと抑えつける。抑えきれなかった分はぎゅっと握る手に込めて。溢れるものはもう涙なんかでは無いことに気付きながらも、気付かない振りをしていた。





涙と優しさ、と











100226




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