背徳感が無いわけではなかった。まず一つ、生物学上に無い。僕も彼も男同士。その時点で十分世界に背いているのだ。二つ目は勿論、僕たちは友達だ。この感情を認めるということは今ある関係を崩すと言うことで、この先今までのように笑いあえる保障などそこには無かった。そして何より一番の理由は、僕自身だ。これから先人狼であることを全ての人から隠し通し生きることは不可能に近い。彼は認めてくれた。そんなこと気にするなと笑ってくれるだろう。しかし世間一般ではどうしたって忌み嫌われるものなのだ。
(だから、駄目。)
この一線を越えることをしてはならないのだ。僕は僕自身にそう言い聞かせてきた。ずっと前から何度も何度も。しかしその思いに反する思いを抱いているのもまた確かなのだ。触れたいし、触れられたい。なんて、決して抱いてはいけない思いだったと言うのに。
(駄目、なのに。)
僕は小さくため息を吐く。僕を捉えた彼の視線が早く別のものへと移りますように。なんてことを思って、気を紛らわすかのようにチョコレートを口に頬ばった。しかしそんなことは何の意味をもなさない。美しい灰色の瞳の中に縋るような色を見たら、止めることなど出来ないだろう。
「リーマス、甘い。」
「キスなんてそんなものだよ。」
お互いの唇が離れて艶めかしい色を残しながら笑う彼に僕も微笑む。背徳感だとか一線だとか、そんなものはもうどうでも良いなんて思えるぐらいに幸福だった。
(どうせ溶けて無くなってしまうなら、今はどろどろに甘く甘く。まるでチョコレートのような恋をしようじゃないか。)
チョコレートラヴァー
090731