始まりと終わりが同時に起きる瞬間に、俺は出会った。気付くのにも自覚するのにも、到底遅すぎたのだ。今さらどんなに足掻こうとも、無駄というもの。まして自分から手を離し逃がしたものを今さら追い求め手に入れようとするなど、愚かしいことである。

(きっと俺は一度も形になんてしなかったんだ。)

改めて振り返れば何故そんな簡単なことにすら気付かなかったのかと、自分を笑ってやりたくなった。しかし実際笑おうとしても漏れるのは笑みなんかじゃない。今の俺には例え偽物だろうとも、笑顔なんて代物は作れなかったのだ。

好きだとか、愛してるだとか。よくもそんな言葉を恥ずかしがらずに言えるよな、なんて軽くあしらっていた。あまりにも日常になりすぎていて俺は気付かなかったのだ。


(今さらに気付くよ。こんな俺だ、愛想なんて尽かされて当然。)


先ほどから視線を落としていた男にそっと手を伸ばす。そして危険な逢瀬を終えぐっすりと眠りについてしまった彼の髪をそうっと撫でた。絡みつく癖っ毛の髪。それすらがたまらなく愛おしいと言うのに、俺はそのことすら彼に伝えたことはなかったのだ。これぐらい伝えておくべきだったと後悔しようが、もう遅い。全部全部自分が悪いのだ。

俺が気付かない間に彼は別の思い人を見つけ、気付いた時には俺への愛想はもう尽かされていた。けれどそれは全て自分の所為で、今さら何をしようとも手遅れでしかない。今ここで自分のものだったと主張するつもりなんてないし、俺には彼を邪魔する必要も権利も無かった。だから、終わりだ。

(けれど、今だけなら。)

彼に俺の思いは伝わらない。そんな今なら彼への思いを形にしても許されるだろうか。二度と伝えることは出来ないだろうけど、始まりを終わらせる為に。


「好きだよ、ジェームズ。」


そうっと呟き彼の唇に重ねるだけのキスを落とす。それは甘いキスとは程遠く、僅かにしょっぱいキスだった。





始まりと共に終わる
(今度は俺が報われない思いをする番だ。)












090730





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