「完璧じゃなくて良いのに、」



彼女と過ごすようになり始めてからも、彼女からの誘いは珍しかった。そして今現在がまさにそれ。紅茶を入れたから、なんて声をかけてくれたのは彼女の方。舞い上がる僕の横からいつもの友は姿を消している。うん、よく気の利く友たちだ。そして満面の笑みを持って返して、今。冒頭の彼女の言葉に戻るわけだ。

「完璧じゃなくて良いのに?」
「ええ、完璧なんかいらないわ。」

自然に、しかしそれすらが優雅に見えるような手付きで彼女は紅茶をすすってそう言った。分からない。彼女の仕草から、表情から、その意図は読み取れなかった。ただ、完璧じゃなくて良い。完璧はいらない。伝わったのは、たったそれだけだ。

「リリーは完璧な僕に何か不満でもあるの?」

ずいっと身を乗り出すようにして聞けば、彼女は否定も肯定もしなかった。ただじーっと僕を見つめて、それでおしまい。やっぱりよく分からないな。でも、あまりしつこく聞いても嫌がるよね。なんて僕は悶々。しかし、不意に彼女は糸を取り出してぴんっと目の前で張って見せた。

「張ったままじゃあ、疲れちゃうでしょ。たまには気を抜いたって良いんじゃないのかと、私は思うの。完璧で、一人で完結していては、他者の存在なんて必要なくなっちゃうじゃない。そんなの、私は嫌よ。」

ゆっくりと彼女はそう紡いで、足早に立ち去ろうとする。まるで分からないだらけの僕の脳内に、それが染み渡るすきなど与えないようにしているかのようだった。杖を一振り。それだけで目の前に広がっていたお茶会はおしまい。二人座り続ける理由はなくなったと言うように、彼女は立ち上がった。とっさに僕が捕まえた糸だけは、ぐるり。姿を残して巻き付く小指。なるほど、そういうことか。なんて彼女の呟いた言葉を飲み込んで、僕はにこりと笑った。彼女が残した言葉に愛をもって返せば、小さく出した舌、赤く染まった頬。そうだね、一人で張り続けては疲れてしまう。だから君のもとでは、良いかもね。いつかは繋げれば、きっと、もっと。



「私の前では。」








君はひとひら、かけら










101031





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -