「リーマス、ちょっとかくまってくれ!」

そう走りながらやってきた、彼。彼は僕の返事なんてろくに聞くこともせずに、ひらりとその身を机の下へと隠した。あーあ、また何かやったな。そう僕は心の中でため息を吐くが、あくまで表情はそのままにして読みかけの本へと視線を落とす。しばらくすれば、さっそく来客。今日は、違う寮生の先輩方二人。綺麗な、女の。

「ねぇ、シリウス見た?」
「いいえ、何かありましたか?」
「何もかにもないわ。最低よ、あの男!あなたも気を付けなさいね」

慌ただしく話しては、去る二人。それを僕はただそっと見守っていた。相当に怒っているところからなんとなく予想はつくけど、分かった上で僕は問う。

「最低だってね、シリウス。何したの?」

にこりと微笑みながらに机の下の彼を覗き込めば、もぞもぞと彼は這いだしてくる。そして何もしてない、なんて口にするが、じっと見つめていれば観念したように言葉を紡いだ。

「別に、ただ、告白されて一回キスさせてくれれば諦めるって言うから、抵抗せずにいたらもう一人に見られて、」
「そのもう一人は以前同じことを要求してきてた、ってあたりかな?最低だね、シリウス」

気まずそうに言葉を濁した彼の後を僕が続ける。ビンゴ、大当たりだ。まーな、なんてあらぬ方向を見て誤魔化す彼に僕はまた最低だね、と繰り返した。だって気まずそうにはするくせに、悪びれた様子はないのだから。まぁ、先輩方の要求もどうかとは思うのだけれど。目の前の彼には呆れっぱなしだ。今度は心の中でなくため息を吐けば、彼は小さく呟く。

「拒絶するつもりはない。でも信用もしないだけ、だよ」
「………知ってる」

その様子が少し寂しげだったから、その言葉には肯定。彼とはそれなりに長く付き合ってきた。家のことだって、彼のことだって知らないわけではないのだ。しかし僕の言葉に安心したのか、優しくふわりと笑みを浮かべるから、また、最低。そう繰り返してやった。別にそんなことで彼が動揺なんてしないことは知っている。むしろ、知っているからこそでもあった。ああいう奴らは何も知らないのに勝手に幻想を抱いてるだけだ、なんて悲しげに言っていたから。彼には笑っていて欲しいと思ってしまう自分がいたから。けれども、今回悪いのは君だからね。そう念を押すように言えば、彼はにこっと笑って僕の頭を撫でた。

「ああ、そうだな。でも、リーマスが俺のことを最低だって言ってくれる限り、俺はお前を好きでいられるから安心しろよ」


ああ、この馬鹿犬には本当に呆れずにはいられないのだ。






特別だって自惚れるよ?











100703





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -