「俺はお前が笑っていればそれで良い」

それだけで、十分。そうやって、無責任に突き返された。彼が何を思ったか。彼が何を思っているか。寸分も違わずに知ることは出来ないけれども、他の誰よりも分かる自信はあった。僕以外の誰かよりも、もしかしたら本人以上にも、僕は彼を知っている。そう思っていたのはきっと間違いではない。なのにこの状況は、なに?

「何のつもりだよ、シリウス」
「…そのまんまの、意味だよ」

その意味が分からない。と言うのに、彼はそれを繰り返す。状況によっては、最高の口説き文句だ。状況によっては、いつもと何ら変わらない日常。なのにそうではなかった。自虐的に笑って、僕の背をとんと押した彼。何もかもが、違う。思い当たる理由は幾つかはあって、しかしそのどれも欠ける。何かが欠落。しかし僕は勝手に確信。どうせ彼がまた一人で迷い込んで、勝手なゴールに行き着いただけなのだ、と。だって理由がない。僕が彼を拒む理由なんて、彼が僕を拒む理由なんて存在しないのだ。だから、否定。だってそんな泣きそうな顔をして僕の幸せを願うなんて、いらない。だって僕は何より、誰より、君の幸せを願うんだ。


「この馬鹿犬。君が泣いてたら、僕は笑えないんだけど?」






願う、が、奪う











100701





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