消えてしまいそうな時があった。世界に、さよならを告げたくなってしまう時。明確な理由なんてそこには無い。けれどもそこに明確な思いだけは、有った。
(消えたい。何もかもにさよなら。)
夜空を走る流星のように一瞬で。水面に揺らぐ木の葉のように切なく。昨日見た夢のように儚くもひたむきに。馬鹿みたいにそれだけを願った。別に消えたからどうなる?どうする?とは、違うのだ。消えて世界に別れを告げる。それに意味があるのだ、なんて。
「リーマス。」
けれどもそんな僕を引き止める存在も居た。世界のすみっこで逃げる為の扉を開く僕を彼はいつも呼び止める。彼と言う存在だけが、僕を世界につなぎ止めていてくれたのだ。そんな思いをそれとなくに伝えれば、彼は笑った。馬鹿だな、俺だけじゃない、と。けれども僕が扉を開いて足を踏み入れたら、そんな僕を無理矢理にでもこっちに連れて帰って来る役目は自分だ、と。ああ、まだ彼が居る限り。彼が僕をつなぎ止めてくれる限り。さよならなんて必要無いのかと、僕は目を閉じ口を塞いだ。
世界にさよなら、する?
091213