さよなら。たった四文字のその一言が言えなかった。何度口を動かそうともそれは音になることはない。ぱくぱくと間抜けに開かれた口は生きることを続ける為にとただ必死に酸素を求めるだけだ。
(酸素 なんて いらないのに。)
ぎゅうっと僕は自身の胸のあたりを強く強く握る。そこには何も無いはずなのに、ひどく痛んだ。痛みは全身に広がり古傷の全てを蘇らせるかのようで。きりきり、きりきり、鋭い痛みだけはこんなにも簡単に蘇るのに 君は。
(君 しか いらないのに。)
そんな思いすら言葉に出来ない。さよならの言い方と一緒に、どこかに全部を忘れてきてしまったみたいだ。君に関する全てをどこかに。なんてどこかは分かり切っていて、未だ僕はそこから進みもせずに足踏みを繰り返しているのだ。後ろばかりを振り返ってはならないなんて言葉の意味が理解出来ないわけではないけれど、結局最後に従うのは己の感情だ。だから、言いたくない。そんなものは知らないままで良い。それが僕の結論だ。
「また会えるって信じてるから、別れの言葉はいらないよね。」
さよならの言い方
091020