「結婚、おめでとう。」

思っていたよりも上手く笑えた。そんなことを思いながら、俺は心の内で何度も練習してきた言葉を口にした。全てが本心からの言葉だなんて到底言えない。けれど心から祝う気持ちも確かにあったのだ。だから、笑える。少なくとも今目の前で戸惑いながらお礼を口にする人物よりは綺麗に笑えてる自信があった。

祝福の気持ちはあった。友として心からのお祝いを送りたいという気持ちも、その出来事を自分のことのように嬉しく思う気持ちも、あったのだ。ただそれだけでは無かった。一人の人として、愛する者が別の者と結ばれることに対する悲しみも生まれてしまった。俺が素直に彼を祝えない理由はそれだけ。全く自分勝手も良いところだ。そう思い自分を笑えば、さっきよりもよっぽど歪んだ笑みになってしまった気がした。

「ねぇ、シリウス。君が望むなら僕は、」

何だか間違えて笑顔と涙を一緒にしてしまったような表情を浮かべて彼は言う。けれど俺はそれにはふるふると首を小さく振って制し、また笑った。ジェームズ、違う。俺はそんな言葉を求めてなどは居ないのだ。


「誰よりも、幸せになって欲しいんだ。」


ああ今度こそ上手く笑えたな。なんて思いながら、俺は今は流れに身を任せても良いだろうとぼうっと考えた。今だけは許されるだろう。そう自分自身にいいわけを作る。そしてもう最後になるであろう彼の腕の中で、小さく悲しみを形にした。





セツナイの幸せ










090717





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