「俺のネクタイ、知らないか?」
いつも目覚めの悪い彼が朝から騒がしいと思えば、僕を揺すりそう聞いた。知らないけど、と答えればぱたぱたと別の人のもとへ行く。そんな様子をベッドに腰掛けたままぼーっと眺めていれば、ずっとあの調子なのだとリーマスが苦笑いを浮かべて言った。そして隣に腰を降ろし僕と同じように彼を見つめる。
「珍しいよね。」
「そうだね、いっぱいいっぱいって感じだ。」
ちょっと考えれば呼び寄せ呪文を使うことなど、すぐに思いつくはずなのに。それが出来ないほどに彼には余裕が無いのだ。ネクタイ、なんてそんなに大切なものだろうか。確かにあれはグリフィンドールの寮生だと一目で分かる首輪のようなものだけれど。
(そうか、首輪か。)
そこまで考えて僕はやっと彼がそれに執着する理由に辿り着いた。真紅と黄金のネクタイ。それは彼にとっては家族とは違うと主張するもの。自分はグリフィンドールの寮生だと示す首輪であると言えるのだ。だからあそこまで余裕を無くして執着を見せる。分かってしまえば実に簡単なことだった。そして謎解きが済んだのなら後は早いと、僕はにこりと笑って立ち上がる。アクシオ、そう小さく呟いて自分の手に呼び寄せたのはネクタイだ。(僕の、だけれども。)僕はそれを持って彼のもとに向かう。そしてシリウス、と名を呼んで彼の首に僕のそれをかけた。
「これ、」
「僕のだけど、これじゃ駄目?」
きょとんとした様子で聞く彼に僕はにこりと笑いかける。どうせ使わないから、なんて言って僕に返そうとする彼の手を無理矢理に止めた。そしてするりと手際良くネクタイを結ぶ。
「あげる。もらって。」
有無を言わせないようにと、僕は彼にそれをつけるとすぐにその場を後にした。本当はそんなことなどせずに普通にしていたいのだけれど。嬉しそうに緩む彼の顔を見ていたら、抱きしめずにはいられなくなってしまいそうだったから。だから僕は彼の笑みに笑みだけを返して、あくまで格好良く立ち去るのだ。
「グリフィンドールになんかじゃなくて、僕に縛られ繋ぎ止められてれば良いのに。」
(なんて、言えないけどね。)
縛って繋ぎ止めて
(僕に、なら幸福。)
090910