そのニュースを聞いたとき、何故かほっとする自分が居たことに驚いた。憎むべき相手だ。彼の所為で大切な友を一人ならず失ったのだ。なのに、彼が生きているという事実に安堵を覚えてしまった。

「脱獄、か。」

新聞に載った彼を眺めて小さく呟く。牢獄での十二年間は彼の見た目こそ変えてしまったが、本質自体は変えられなかった。そんなことを思わせる瞳をしていた。あの時と何一つとして変わらない真っ直ぐで澄んだグレーの瞳。もしかしたら彼では無かったのではないかと。そうであれば良いと錯覚してしまう。けれど、駄目だ。私が教師としてあの子の近くに居る限り、彼と再び顔を合わせる機会はあるだろう。しかし、その時はきっと自らの手で、終わりを告げなければならないのだ。決して彼が抱き締めてくれたという事実を忘れたわけではないが、彼の温度を思い出せなくなるぐらいには充分過ぎる時間があったから。

(なのに、)

簡単に気持ちは揺らぐ。ぐらぐら、ぐらぐら、不安定に揺れるのだ。きっと私が彼に手をかけるなど、出来ないのだ。実力的な面でものを言っているのではない。それよりももっと単純で直球なものだ。それから、思った。再び彼と出会った時、私は怒るだろうか。泣くだろうか。笑うだろうか。それとも、かつて彼がそうしてくれたように力一杯に抱き締めるのだろうか。ああ、答えは簡単だ。


(今までなんでずっと思い出せなかったのかの方が不思議なぐらいだ。)


ほら、まだ僕は君の温度を感じられる。暖かい、君は今も昔も変わらない。







忘れられないって知ってた











090829





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