それは衝動的な行動だった。彼の白い首筋に吸うかの如く噛みつけば、ぬらりと赤い血が垂れる。それと共にはらり、彼の灰色の瞳からは涙が零れた。
「痛かった?」
そう問えば彼は首を振り口を開く。「そんなことはないけれど、」と言葉半ばで切って、それまでだ。続きを言おうとはしない。だから僕も続きを聞こうとはせず、そのまま舌を彼の首筋へと這わせて血を舐めとった。そんな間も彼は抵抗一つせずに居る。
「気持ちよかったの?」
「まさか、マゾじゃねえよ。」
まだ頬に涙の線を残したままに、彼はいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべた。どうやら本当に、痛い訳でも気持ちいい訳でも無いらしい。変なの、と僕が呟けば、お前の方がなんて言い返された。
「君は僕以外の奴にもそうさせるのかな、」
そう彼を見つめて呟けば、彼は不敵に笑って見せる。さあな、なんて口にしてみてはいるものの、表情からは答えは一つしか読み取れない。全く僕も彼もただの馬鹿じゃないかなんて思って、今度は涙に濡れた頬を優しく舐めた。
ただ君依存症
090823