「すき。」

真剣に見つめてそう言えば、彼は照れたように優しく笑った。俺もすき、とは口にするもののそれは僕の求めている好きとは大きく違う。けれども僕は知っている。好きだとか、愛してるだとか。そういった言葉に彼は逆らうことなど出来ないのだ。それは一部では既知の事実であった。それを知った上で彼を求めてきた者を僕は何人も見てきたのだ。一夜限りで体を求めてくるものも居れば、寂しさを紛らわす為に彼に時間を求める者も居た。しかしそんな奴らは所詮そんなものなのだ。彼がまた一つ甘い言葉に揺れ動かされれば簡単に別れを告げる。彼を利用していただけであり自分の思うように行かなくなれば切り捨てることは造作もない、その程度だ。しかし散々言ったところで利用していると言う意味で僕は彼らと同じだった。最低で、狡い手段だ。それは分かり切っているけれど、それでもどうしても彼が欲しかったのだ。

「あいしてる。」

そう呟き手を伸ばせば、ほら、彼は僕を拒めない。どんなに強がり笑って生きようとも、本人も気付かない心の奥底で彼は愛情を求め続けているのだ。その理由は簡単。彼は幼い頃から愛に飢えていた。愛とは無縁な日々を過ごしてきた彼だから、与えられる愛を拒むなど到底成し得ぬことなのだ。それを分かり切っているのに利用する、僕は最低最悪の人間。そうは思ったって彼を求めてやまない自分の心を制御することは出来ないのだ。


「すき、すき、あいしてる。」


間違った、歪んだ関係だ。しかし出来上がったギブアンドテイクの関係を今さら崩すことなど、僕には到底出来なかった。それがどんなに歪なものだとは知ろうとも、愛に勝る感情など無いと。言い訳を作っては、僕はまた彼に唇を重ねるのだ。





愛に飢えた犬
(どっちが?)










090820





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