終わりなど見えなかった。底なんて無いのかと思うほどにそれは流れ続けた。意思に反して?いや、そうとは言い難い。しかし泣きたいという思いなんて無いのだから、これは意志に反しているということではないのだろうか。

(なんで、居なくなったんだ。)

みんなみんな、そうだ。それでも彼だけはそんなことは無いと。ずっと一緒に居てくれるのだと信じていたのに。

「…ばかいぬ。」

小さく呟くもそれはすぐに涙にかき消される。あの子の居る手前では泣けなかった。しかし一度堰を切るようにして流れ出した涙を、止める術は見つからなかったのだ。ポロポロと零れ落ちるそれをすくっては、もう居ない彼を見る。時々見せる無邪気な笑顔が、優しく呼ぶ名前が、堪らなく愛おしかったと言うのに。

(いっそのこと、同じになってしまえばどうだろうか。)

蛇口を開き手に水をすくう。映る瞳は揺れていて、その方がよっぽど楽だと自分自身に語りかけてくるようであった。だから、覚悟を決めようかと。苦しいのなんてほんの一瞬で、すぐに昔懐かしい友の下に行けるのならそんな素晴らしいことはないではないか。
しかし、不意に名を呼ばれる。同じ悲しみを讃えた者の声に振り返り、知り、薄く笑みを浮かべた。ああまだみんなの下に君の下に、行くことは許されないのだね。すくっていた水を逃がして濡れたままの手で小さく頬を叩けば、自分が今考えていたことの愚かしさを知る。みんなが守ってきたものを自分も引き継がなければならないのだ。きっと彼もそれを望んだから。どんなに格好悪くもがこうとも、まだ溺れるわけにはいかないのだ。


「今行くよ、ハリー。」






涙の海で泳ぐ
(君の下へはまだ少し時間がかかるね。)











090806





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