――神様はいるよ。
柔らかく微笑んだ彼女に私は一瞬だけ息を呑んだ。一世代は違うだろう少女が、あまりにも大人びて見えた。母にも似た、慈愛に満ちていた。
――神様はいるよ。
彼女は繰り返した。そうして、私の膨らみ始めたお腹に耳をくっつけるようにして、抱き着く。突然の少女の行動に私は一瞬だけ怯むも、すぐに私も少女の小さな身体へと手を回して、抱きしめる。幼い体温が心地よくて、愛おしい。抱きしめたまま、そして抱きしめられたまま、彼女は喋る。
――人は神として生まれてきて、
そうして人へと成長するの。
だから、だからね……、
そこでもったいつけるようにして、一度言葉が切られる。
とくん、とくん……と幼い鼓動が一つ。もう、一つ。私は少女にかけていた手を片方外し、そろりと自分の腹を撫でた。
だから?と、私が先を促すと、少女はふふっと嬉しそうに笑った。
――だから人は『授かる』んだよ。
『できる』わけでも、
『作る』わけでもないの。
子どもは神様に護られて、
生まれてくるの。
だから、大丈夫だよ。護られていれるのだもの。
まるで私の心を見透かしているみたいに、上目使いでほほえむ彼女。
どうして、と。
どうして私の不安を知っているの、と。
どうして子を産む事を心配する私を貴女はを知りえるの、と。
咄嗟に尋ねそうになるも、なんだかそれはしちゃあいけない気がして、私は言葉を飲み込む。代わりに彼女を抱きしめる力をほんの少しだけ強めて、耳元で囁く。
――貴女はとっても賢い子ね。
有難う。
少し、楽になれそうだわ。
すると、彼女は少しだけ顔を引き締めて、よかったとつぶやいた。
――私、貴女の元に生まれてきて
本当に良かったよ。
呟くような声。
私はそれを、全て聞き取る事はできなかった。
――ごめん。なに?
少女の言葉を聞き直そうと視線を腕の中へと向ける。しかし。そこには。
あの少女は、ましてや誰もいなくて。
空っぽの腕を下ろし、それから辺りをきょろきょろと見回す。しかし、やはり。
ただ。
どこか、遠くて近い場所から。
『可愛らしい、女の子ですよ!』
誰かの歓喜が聞こえてきた。
それは、ちょっとした未来予知。
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[2012.1214]