無明一族は豪華壮麗



夕飯時。
無明家の食卓は異様な緊張感に包まれていた。食卓を囲むみんなが、なんとなく気まずげに視線を落とし、黙々と夕飯をつついている。
……ある二人を除いては。
「一兄さま、一兄さま!わたし、サラダが食べたいです」
いつこがぴょんとテーブルに乗り出して、対角線上にあるサラダを指差した。
「はいはい」
ねだるように妹に仰ぎ見られれば、兄として悪い気はしないらしく。一瀬は蕩けるような笑みを浮かべた。
「生ハムも欲しいです」
「わかった」と頷き、一瀬はバラの形に巻かれた生ハムも取ってやる。
「はい、あーん」
口を開けるように促せば、いつこは素直に口を開けた。そこに生ハムを巻き付けたサラダをいれてやる。
ぱくん。
もぐもぐ。
いつこはもぐもぐと口を動かしていたが、しばらくして、途端、その相好を崩した。ふふふ、と幸せそうな笑みを漏らす。
「美味しい?」
「とっても美味しいです。いつこ、一兄さまのお料理大好き。ドレッシングはお手製ですか」
屈託なく笑みを向けた少女に、一瀬も微笑む。
「そう。林檎が余ってたから。いつこが気に入ってくれたのならなによりだよ」
言いつつ、妹の頭を良い子良い子する。いつこはくすぐったそうに身を捩らせた。
……「いちゃいちゃ」を体現したような状態である。
「一瀬くん、流石にそれはどうなんだよ」
そんな兄と妹の様子にとうとう耐えかねたらしい。ちょうど、正面に座っていた双樹が渋い顔で彼らを見遣る。頬杖をついて、呆れきった様子である。名前を呼ばれ、一瀬は視線を妹から弟へ移した。瞬間、彼は眉をひそめた。
「双樹、ご飯中に頬杖なんてついちゃだめでしょう。お行儀の悪い」
「今の一瀬くんに行儀悪いとか言われたくねえ」
諭すように言われ、双樹はややムッとしたようだった。
不満げに一瀬の「膝の上の」妹をいつこはきょとんてした様子で首を捻った。
「一瀬くんたちのその格好の方がおかしいだろ」
決してらいつこの椅子がないわけではない。いくら、いつこと食事を一緒にする機会が極端に少ないとはいえ。ちゃんといつこの椅子は用意されている。しかも、一瀬の隣。
たった数センチずれれば、いつこは自分の椅子に座れると言うのに。いつこはなぜか食事初めから当然のように一瀬の膝の上に座り、一瀬もそれが当然のようにうけいれた。普段、食事中のマナーにうるさい、あの一瀬が、だ。
ちっと小さく舌打ちをした双樹に、一瀬は困ったように眉尻を下げた。
「いつこちゃんに頼まれると断れなくってさー」
照れたように頭を掻いた兄に、双樹は大袈裟に溜め息をついた。
「双兄さま、焼きもちですか?」



四月に限って言えば、夜、目を閉じた場所と朝、目を開ける場所は同じでない。眠る場所は大体二階にある自室だが、起きる場所はばらばらだ。自室のベッド上でない場所なら良い方で、例えば廊下だったり、玄関先だったり。

[2014.0112]




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