ハイミルク | ナノ
※高校生、2012バレンタイン

遊びに来た忍の荷物は大変なことになっていた。

「今年もまぁモテモテですこと・・・」

ムスっとした表情でまあねと言って忍は、俺に荷物を押し付けるとずかずかと部屋に上がり込んで胡座をかいた。
男所帯の俺にはバレンタインなんて無縁だが、忍のとこは女子高と言えど違う。
女のイベント好きには度々驚かされるものの、バレンタインとなると一際熱くなるのはどういうことだ。
どうしてここまで力が入るのか。
今年ももれなく沢山の同級生や後輩からチョコを貰って来た忍はバレンタインなんか嫌いだとブツブツ文句垂れている。

「まぁ、ただでチョコ貰えると思えば得じゃねーの」

あんた甘党なんだから良かったじゃないと茶化せば、うざったいものを見るような目で睨まれた。

「お返し大変なの、知ってんでしょうが・・・」

「・・・ほら、今年も手伝ってやっから」

手作りが一番安く済むからと、菓子作りを手伝わされるのも恒例になりつつある。
手伝わされるというより、俺が作ってこいつは隣でつまみ食いしてるだけだ。
去年はブラウニー、一昨年はトリュフ、さて今年はどうするか。
もともと料理は嫌いじゃないから、俺としてはなかなか楽しめてもいるが。
料理なんて微塵も趣味じゃない、食べる専門でいたい精神の忍には憂鬱でしかないらしい。

「ガッコーでもちょっとつまんできたけど全然へんないの、あきおちゃん食べてー」

「お前なぁ・・・」

真意は分からなくても、いちおうお前のために用意されたものだろうと思いつつ、捨てるわけにはいかないから目に入った包みから順に手をのばす。

「で、俺にはないわけ?シノブちゃんからチョコ」

なんだかんだ毎年、聞いてしまうこの質問に、例年通りの答えを忍は返してきた。

「あげたじゃん、食べてんじゃん」

ほら、と俺の手元を指さして言う。
カラースプレーの散りばめられたカップチョコ。

「・・・これ、俺がやってんの、シノブちゃんの残飯処理だからな?」

口に放り込む。
味はそこそこ、俺のが上手く作れるな。

「はいはい、毎年ありがとね」

適当な扱いにあーあと思いながら、黙々とチョコを消費していく。
それを横でただ見ているだけの忍。
女王さまか、おまえは。

「でもあきおちゃんさ、こんなわたしだから好きなんでしょ?」

ね?と目を細めて試すように笑う。
さっきまでの不機嫌はどこへやら、いやに上機嫌だ。

けれどやっぱり毎年お決まりのこの殺し文句に、俺は頷いてしまうのだ。
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