0105 | ナノ
きらびやかというか、単純に派手というか。

サイケデリックな柄の異様にすその短いワンピースから伸びる生足を見て明王先輩が羨ましくなったとか。

決して、そんなことは、ない。ないから。

ごめん、ちょっと羨ましいわ。

ツンとした紫のヒールのたっかい靴、カーキのラフなジャケット。
記憶する限りではいつもまとめられていたと思うピンクの髪は無造作に肩に流れていた。
隙間から覗く大ぶりのピアスも迫力がある。
強い色の目元とリップは、化粧の分からない俺から見ても濃い。でもそれが似合っているから不思議と嫌じゃない。
俺はもっとシンプルな子が好みだけど。

立ち読み客すらいない、素っ気無い店内に佇む彼女だけが極彩色で存在感を放っていた。

日付をまたいで針が一回転した頃に現れた小鳥遊さんは俺を見るなり「ほんとに働いてるんだー」とおかしそうに笑った。

小鳥遊さんの制服でもユニフォームでもない姿を見たのはこれが初めてだ。
なるほど、合コンがどういうものかは知らないけど、少なくともこんな派手な女の人、普通の男なら見た目でまずびびってしまうだろう。
正直俺も一瞬誰か分かんなくてびびった。
同じような系統の人ならどう思うか分かんないけど、明王さんが余裕に構えていた理由が少し分かった気がする。

「もしかして、あきおさんに聞きました?」

思い当たる節を想像して尋ねれば、小鳥遊さんは頷く。

「そう、あんたに会ったってメール来てさ」

帰り道ついでに様子見に来たのよ、と言いながらデザートコーナーを物色し始めた。
その姿勢がなんとなく、数時間前に来た明王さんとだぶって見えて面白い。

「情報早いっすね」

「あんたに会って嬉しかったんじゃない?」

「・・・え」

「なに、その地味な反応」

「・・・いやいやいや、あきおさんそんなキャラじゃないっしょ」

不意打ちだ。なんだよ、これ。
尊敬している先輩が俺に会えて嬉しいとか、そんな、普通に照れんじゃん。
おい、俺きもいな。

「帝国で過ごした間、楽しくってしょうがなかったみたいだからさ。
懐かしかったんでしょ、きっと」

つい数ヶ月前のことが、懐かしいと言う。

引っかかるものがある。

その感覚がまだ俺には分からない。

「先輩たち、会ったりしてないんですか」

「うーん、難しいよね。
不動はたまーに佐久間とは会ってるけど。
ほら、あいつだけ就職で他は進学じゃない?
生活の時間も休みも合わないから。
まだまだ新生活始まったばっかりで落ち着かないもの。
みんな、慣れることに必死なのよ」

どこかしんみりとした小鳥遊さんの言い方に、少し寂しさを感じた。

そういうものなのだろうか。

来年には自分もそうなるだろうに、やっぱり想像がつかなくて。

しょうがないから考えるのを止めた。

「ていうか、あんたこそ連絡とってないの?ほら、辺見とか」

べったり懐いてたじゃない、と逆に聞かれてどきりとした。

「仲良かったよね?」

「えーと、たまにメールは送るんですけど」

向こう忙しいだろうし、あんまり、と歯切れ悪く答えたものの、ふうん、と相槌を打つだけで深くは聞いて来なかった。


メールは確かに送っているし、返事だって来る。
けどそれは何か意味のある内容じゃなくて、ただ悪ふざけのようにくっだらないことに辺見先輩が呆れた反応を返してくれるってだけのもの。
誰がどうしていますかとか聞けないし、俺はどうしていますとも書いていない。
ここでバイトを始めたことすら、言ってない。

聞けないんだ、今みたいに連絡なんてとってません知りませんなんて言われてしまうことが怖くてがっかりしたくなくて。

嫌なんだ、忙しくしているかもしれない状況を邪魔してしまうことも。
だってあの人、俺に相談なんてしたことなくて。

離れて気がついた、俺あの人のことなんにも知らなかったんだなぁって。
一緒にふざけて、サッカーして、でもそれだけだった。
そばにいれた頃はそれで良かったんだと思う。
それだけで。

でも離れたら見えてきてしまった。
進路も将来のことも、知らないところで決めて気がついたら大学に合格していたって。
だから俺があの人に弱音吐いたりするなんて情けなくって、出来ない。
悪ふざけばっかりでよく絡んでくるちょっとうざくて、でもなんかほっとけない後輩、でいたいんだ。
少なくとも今は。
忘れられないように。
狭い世界にいる俺が、広い世界に行ってしまった人といるために。
俺はこういう奴ですよってわかりやすいテンプレートを、辺見先輩の中から無くさないために。


「まぁ、落ち着いたらまた会えるって。
あいつら気持ち悪いくらい仲良かったし。
あ、これお願い」

カウンターにバナナの入ったロールケーキを置きながら、小鳥遊さんは明るく言う。
俺に言っているようにも、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
もしかしたら、無意識に不安そうな顔をしてしまっていたのかもしれない。
気を遣わせてしまったかな。

ふと見下ろした小鳥遊さんの指は爪先まで鮮やかに色付いていて、女の人は大変だなと思った。

「そっすね」

だから俺も、明るく答えてみせた。

「そういえばあきおさんもデザート買っていったんですよー。
二人とも甘党なんですか?なんかお似合いー」

気分転換にからかおうと思って、商品を袋に詰めながらそう聞いてみた。

「あいつ、何買ったの?」

「牛乳プリンでした、たしか」

相手が相手だから無視されるかもと予想したのに、存外食いついてきたことを少し意外に思いながら答えると、小鳥遊さんは意地の悪そうな顔をした。

「へえー」

その笑顔の意味が分からなくって、反応し損ねた。
そんな俺を見て、にこりとする小鳥遊さん。

「それね、わたしの好物」

そう言ってから、今度はカウンターの上の袋を指さした。

「そんでこれは、あきおくんの好物」

わざとらしく先輩を名前で呼んで、お礼にね、と付け足したそれに、ああ、お風呂のことかと察した。

「わたしたち、相思相愛なの」

「良いカップルでしょ?」

高らかに言われて、こっちがからかうつもりが、盛大にのろけられたのだと分かって脱力した。

けたけたと笑いながらお金をぴったり置くと、がんばってねーと言いながら小鳥遊さんは項垂れる俺を置いて店から出ていった。



・・・羨ましいなんて、思ってねーから!
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