作戦会議@25 | ナノ
※豪夏、吹染前提

相談があって、と切り出してきたその声は頼りなげで、電話の向こうではあの特徴的な太眉を垂れ下げているんだろうと容易に想像出来た。

「相談?俺にか?」

「そう、豪炎寺くんしか頼れないんだ」

豪炎寺はわずかに目を見開いた。
エイリアとの一件以来何かと連絡は取り合っていたが、その内容は互いの近況やサッカーに関する話題がほとんどで、こう込み入った話を持ちかけられることが無かったからだ。
ちらりと思い出すのは、吹雪がサッカーを出来なくなったあの時。

もしかしてまた、と豪炎寺の胸に不安が過る。
当事者の吹雪はうーんとか、ええっと、と言い淀みながらなかなか要件を言わずにいる。

「試合とか練習、うまくいってないのか?」

言いにくいことなのかと思い豪炎寺から助け舟を出すと、えっ、と吹雪は素っ頓狂な声をあげた。

「試合?・・・ああ、違うんだ、サッカーのことじゃなくて・・・
ええっと、あのね、豪炎寺くんて夏未さんと付き合ってるよね?」

「・・・それが、なんの相談に関係あるんだ」

思いもよらない言葉に一瞬反応が遅れたが、なんとか答える。
ぶっきらぼうな豪炎寺の反応に、吹雪は焦った。

「ごめん!急にこんなこと言って!
でも他に仲の良いひとで、誰かとお付き合いしてる人、知らなくて・・・」

「いや、謝るようなことじゃ・・・ただ、なんでそんなことを聞くんだ?」

しゅんとした声音に慌てて言い返す。
機嫌を損ねたわけではない、ただ他人から改めてそういう話題を振られることに慣れていないから照れくさかったのだ。
それでも怒っているような印象を与えてしまう自分の物言いに豪炎寺は少しうんざりしながら、今度はなるべく丁寧に問いかけた。
どうやら吹雪の精神状態に関する問題や相談では無さそうで、そのことにはほっとしながら。

「うん・・・あのさ、今日クリスマスじゃない?
僕も好きなひとがいるんだけどね、その人に何をしてあげたら喜ぶか考えてたんだ。
今までこんなに人を好きになったこと無かったし、何かしてあげたいって思ったことなかったし、初めての大きいイベントだし。
でも結局、今の今まで良いことが思いつかなくて。
遠くに住んでるから会うことも、プレゼントを渡すことも出来ないんだ。
もう時間がないって思うと余計に焦っちゃって頭回らなくて。
それで、豪炎寺くんに聞いてもらったら何か思いつくかもと思って」

心配していたような話ではなかったが、また違った方向に難しい内容に豪炎寺は天井を睨む。

「そういうことか・・・けど生憎だが、俺もそういう話には慣れてないぞ」

「ううん、それでもいいんだ。
恋愛相談なんて僕もしたことなかったから、ちょっと恥ずかしくて言い出しにくかったんだけど、こうして聞いてもらえるだけで嬉しいよ。
ありがとう。
こういうのって言葉にして話してみるだけでも、心が楽になるものなんだね」

知らなかったよと笑う吹雪の声は明るい。
ひとり悩みに悩んで、その結果自分を頼ってくれたという事実は純粋に嬉しいと思った。
けれど何も協力出来そうにない自分に、ありがとうとまで言う。
何か、力になれることは本当に無いのか。
豪炎寺は目を瞑った。

「・・・役に立つかは分からないが」

つい先日の夏未とのやり取りを思い返した。


クリスマスにどこか行きたい所やしたいことはないのかと聞いたら、彼女は特に何もしなくていいと答えた。
豪炎寺が目を丸くしていると、夏未はきまりの悪い顔で、今はただ普通にいつもどおり一緒にいられれば充分よと言う。
自分が沖縄に匿われている期間のことを思い返してのことだったんだろう。
いつも通りの穏やかな日常を、彼女は望んだ。

夏未の望んだとおり、今日も普通に学校で会い、自分は練習を、夏未はマネージャーの仕事をこなし、帰りはいつもどおり待ち合わせをして一緒に帰った。
ただいつもより少しだけ遠回りをして、歩く速度も落として。


「イベント事だからといって、特別なことにこだわる必要は無いのかもしれないな。
吹雪も、俺みたいに相手に心配をかけたりしてないか?」

「思い当てる節がたくさんあるよ・・・」

「それなら、ただ日頃の感謝の気持ちを伝えるのもいいと思う。
きっと喜ぶぞ」

「・・・その言い方だと、なんだか、母の日みたいだ」

吹雪が声をあげて笑った。
確かに何か変な言い方だったなと豪炎寺も苦笑いした。

「うん、でも、良いね。
それでいこう。
豪炎寺くん凄いよ、夏未さんにも感謝だなぁ」

つい特別であることにこだわってしまう自分とは違って、二人はなんて余裕があるんだろうと関心する。
同い年であるはずなのに、吹雪から見た二人はずっと大人に思えた。

「大げさだ」

「そんなことないって!やっぱり君に話してよかった。
さっそく実行してみるよ」

仰ぎ見た時計の針が指し示すのは午後9時過ぎ。
夕飯も風呂ももう済ませているはずだろう。

「ああ、頑張れよ」

吹雪の意気込みと緊張が電話越しに伝わって来るようで、豪炎寺の声にも力が篭る。
こうして誰かが誰かのために真剣になる姿勢は気持ちがいいと思いながら、自分もまだ夏未に伝えなくてはいけないことがあるような気がした。

「うん、本当にありがとう。
夏未さんと仲良くね」

「ああ、そっちこそ・・・あ、おい。そういえば、相手は誰なんだ?」

大事な部分を聞いていなかったことにようやく気がついて豪炎寺が尋ねると、吹雪は幸せそうに笑った。

「まだ秘密」

「なんだ、まだって」

「実はまだ付き合ってはいないんだよね。
両思いなのは確定なんだけど、なかなか向こうが素直になってくれなくて。
でも今日落とすつもりだからさ、また電話する時のお楽しみにってことで」

「すごい自信だな」

「相手が照れ屋なんだよ」

二人分の笑い声が重なる。
それじゃあまた、と言い合うと通話は終わった。

吹雪は一度、深呼吸をして。豪炎寺はひとつ伸びをして。
再び携帯を手に取った。
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