クリーミー | ナノ
ココアは好きじゃねぇ、とのたまう不動に何言ってんだこいつと思った。

「冬はココアでしょ」

「美味しくねぇじゃん」

はあ?と思わず呆れた調子が正直に出てしまって、不動の片方の眉がぴくりと動いた。
それが不機嫌になりそうな時の合図だなんて、たぶん本人は知らないだろう。

「だいたいあんなん、甘い甘いって言いながら全然甘くねーし、中途半端じゃねーか」

これ以上不機嫌になられるのは面倒だから、ばか、ココアは甘いもんだろと言いたくなるのをぐっと堪えて思考を巡らす。
これは、もしかして、もしかして。

「ねぇあんた、粉、何で割って飲んでたの」

「お湯だろ」

それ以外に何があるんだと言いたげに鼻をならした。
わたしは、ああやっぱりと内心頷く。

「・・・ふつう牛乳じゃない?」

パッケージの裏にだって丁寧に記載されてるじゃないか。まさか不動がそれを知らないはずがない。

「・・・牛乳は、足つくの早いから買わねーんだよ」

しかもわざわざココアという嗜好品のために牛乳を買うなんて、とぶつぶつ文句を垂れる不動。
それでこいつの家庭事情が複雑だということを思い出した。
それはなんとも、口が悪いと多少の自覚があるわたしにもつっこみにくいところ。
けれどココアが美味しくないと言われたままなのは納得いかない。

だって美味しいじゃん、甘いうえに胃の中がぬくぬくになって気持ちが良い。
しかも一袋で20回は飲める。
お前コストパフォーマンスが良いもの好きだろ。
ココアは安くて手頃に幸せ気分を手に入れられる優れものだ。
不動だって、一度しっかりと美味しい奴を飲んでみたら良い。
そしたらそんな考えは変わるだろうに。
知らないなんて損だと思う。

「・・・あ」

「なんだよ」

「良いこと思い付いた」

だからなにが、と追撃してくる不動を無視して台所に入る。
目当ての物はクリームパウダーだ。
本来はコーヒーに使うものだけど、牛乳の代わりになるに違いない。
それに、これなら保存がきく。

マグを2つ並べて、そこにココアの粉とクリームパウダーをざっくり入れた。
熱々の湯を少量注いでぐるぐると粉を練る。白と黒がまざっていく。
粉が溶けきったのを確認して更にお湯を慎重に注ぐ。緩くなりすぎてはいけない。味が薄まってはだめだから。
かき混ぜながら、立ち上る熱い湯気と安っぽい甘い香りにうっとりした。
牛乳でつくるときほど白っぽい色ではないけど、お湯だけよりはずっといいはずだ。



出来上がったそれをほら、と不動の手に無理矢理押し付けると、しぶしぶ受け取った。
それでも口をつけないでいるから、わたしが先に飲んで見せる。
含んだ口内に牛乳とは違う、でもココアの粉だけじゃ生まれないコクと甘さをしっかりと感じて成功だと心の中でガッツポーズをした。
うん、これはこれで美味しい。
温い液体がお腹の中に流れ着いて、ほわほわとする。
やっぱりこれは幸せ、だと思う。

マグに口をつけて傾けたまま不動を横目で見てみる。
しばらくマグの中の液体とわたしを交互に疑いの眼差しで見ていたけど、観念したようにようやくそれに口を付けた。

「・・・あまい」

少し悔しそうに、小さな声で呟かれた。
偏屈に歪められていた口許が、若干だけどゆるむのを見逃さなかった。

「でしょ?」

わたしの幸せ気分はいっそう膨らんだ。
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