指先にあなた | ナノ
きらり、と小瓶のなかで光る粒に心が踊った。
小さな筆で爪先をなぞれば、そこに小さな宇宙が生まれた。
濃紺色にたっぷりのラメはまさしく夜空だと思う。
わたしにはまだ大人っぽすぎる色は、でも、一目惚れしてしまったのだから仕方がない。
買ったばかりのマニキュアを見つめて、ふふっと思わず声が出ちゃうくらいご機嫌になる。
指先に宇宙、きっと流れ星も流れる。

「・・・お兄ちゃんみたい」

声に出したらなんだかくすぐったくてまた笑ってしまう。

「ルシェ?俺がどうかした?」

向かいに座るお兄ちゃんが新聞から顔をあげて、尋ねてきた。

「ううん、何でもないよ。ねぇ見て。マニキュア塗ったの」

ほら、と手の甲をお兄ちゃんの方にくるりと向けて見せる。
お兄ちゃんは爪先に顔を近付けると、へぇ、と声をあげた。

「随分大人っぽくてセクシーだ」

「そうかも」

「ルシェがそういうの選ぶなんて珍しいけど、似合うね」

さらりと言ってみせたお兄ちゃんはズルい人だと思いながら、そうでしょ?とわたしは冗談ぽく笑い返した。

大人っぽくて、セクシー。

そうだよね、だってこれはあなたをイメージさせた色だったから。
わたしよりずっと年上でかっこいいあなたに少しでも近付きたくて選んだんだよ。

なんて、そんなこと、恥ずかしくて言えないから内緒だけど。

まだまだわたしは子供だけど、もう少し大きくなったらきっとあなたと並んで釣り合うくらい素敵になってみせるから。

このマニキュアが本当に似合うようになるその時まで、こうしてわたしのそばにいてね。
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