わたしを見て | ナノ
残暑のきつい帰り道。
今日が夏休み最後の練習だった。
サッカー部三年の面々とわたし達マネージャーは疲れと充実感を引きずりながらぞろぞろと、たらたらと歩いている。

わたしはその一番後ろ、みんなと少し距離を置く速度で足を動かしながら、視線をみんなの足元に向けていた。
夕陽に照らされて長く伸びるそれぞれの影、かかとの潰されたスニーカー、足首の鮮やかなミサンガ、膝までたくしあげられたズボン、汗を掻いたからと靴下を脱いだ生足にローファー、靴下の日焼け跡。

暑いからと言って気の抜けた格好をしたはずなのに、互いに肩を寄せてわいわいと騒ぎ合うみんなの後ろ姿を見ていると自然と頬が緩む。
以前のわたしなら間違いなく眉をしかめていたはずの光景が、今はこんなにも微笑ましくて、夕方独特の熱がまとわりつく自分の足がなんだかくすぐったく感じた。

休み中ずっと、自分だけでもと頑なにきっちり制服を着込んでいたけれど、秋さんと冬花さんに言いくるめられて、最後の最後の今日、とうとう靴下を脱いでしまった。

素足で履くローファーの硬さはどこかぎこちなくて、靴下なんて脱いでいても履いていても大して温度差なんてないのだと分かったけれど。
でも、彼女たちと同じ格好をしたのは何故だろう、とてもわくわくする。
前を歩くみんなと自分の足元を見比べて、やっぱり同じなのを確認すると、わたしの頬はますますだらしなくなった。

ふと、なんとなく気になって隣に並んでいる豪炎寺くんの横顔をちらりと見ると、思い切り顔をそらされてしまった。

それはもう、ものすごい速さで。

わたしはその動作に驚いて一瞬固まってしまい、でもすぐにあれ、と思う。
よくよく見てみれば豪炎寺くんの口元は笑い出しそうなのを堪えているように不自然に閉ざされている。
どうやらわたしが一人にやけているのを見られていたのだと気がついた。

それがどうにも気に入らなくて、思わず彼の背中をはたくと豪炎寺くんは少しだけ気まずそうに眉尻を下げてみせたけど、全然ちっとも悪いと思っていないようだ。
現に、もうばれてしまったものは仕方ないというふうに、今はくっきりと笑っている。
釣り気味の目をやんわりと細めて声を上げずに喉の奥で笑う表情は他の同級生の男の子たちよりぐっと大人びて見えて、少しだけドキリとした。
けど、わたしを見るその眼は彼が彼の妹さんを見るときのような、優しいけど過保護的な甘さを含んでいるそれだから、ますます気に入らない。

わたしはあなたの妹じゃないのよ!なんて言う気はないけれど、豪炎寺くんが度々そういう眼差しをわたしに向けるのは問題だ。
確かに、みんなより非常識なところがあったり、一般家庭では当たり前のことが未経験だったり、そういう自覚はあるけれど。

目線を落として、彼の足下を見た。
前を行く男の子達と同じように膝まで捲くられたズボンから伸びている脚はキレイに筋肉がついていて、使い古したスニーカーから覗く踝丈の靴下の青いラインと足首がまぶしい。

豪炎寺くんにそんなつもりはないのだろうけど、でもまるで彼が優位にいるような動作は、わたしの心を時々もどかしくさせる。
知らずに表情を読まれていたり、笑顔ひとつでドキドキさせられてしまったり。

どうにか彼の、この蒸すような暑さにも揺るがない涼しげな様子を動かしたくなった。

思案するわたしの目は、踝のむき出た足下から豪炎寺くんの左手に移動する。
持つ荷物のない片手はただそこで揺れていて、これだと思うままにわたしは手を伸ばした。

掴んだ瞬間に、大袈裟に跳ねたのは豪炎寺くんの肩。
細めていた目は大きく見開かれた。
反射的に振りほどかれないようにと掴んだ指に力を入れたけれど、彼にその様子は無くてわたしはほっとする。
それから彼の目をまっすぐ見て、にこやかに笑って見せてから視線を前方に戻した。

相変わらず前を行くみんなは、楽しげに笑いあっている。

度々拾える会話は、新学期最初のテストや、まだ終わっていない宿題のことなんかだ。
それに紛れてこれからラーメンを食べていこうと提案した誰かの言葉に賛同する声が増え始めた。

もう一度、豪炎寺くんの表情を窺いたいと思うものの、今こうしているだけでわたしはいっぱいいっぱいだった。

にぎりしめた手のひらに汗が滲むのが分かる。
それが恥ずかしかったけど、確かに豪炎寺くんの驚く顔を見ることが出来たから、それを思えば大したことじゃない。
繋がった手も、彼の表情も、ずっとずっとわたしが欲しかったもの。
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