星に願いを | ナノ
※2011七夕
晴れ渡った夜空は星がとても明るい。
かつては明るい時間帯にしか会うことの出来なかったふたりは、ルシェの目が見えるようになったことで、夜にも並んで出掛けるようになった。
もちろんフィディオは、少女の家までの送り迎えは忘れない。
手をしっかりつなぎ、暗い足元に気をつけながらゆっくりと散歩を楽しむ。
夏は日差しの強い昼間より、空気が柔らかくなる夜の散歩のほうがふたりは気に入っていた。
フィディオは歩む足を止めると、夜空を仰ぐ。
それにつられてルシェも立ち止まり、フィディオを見上げた。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「こんなに星がよく見えるなら、流れ星を見つけられるかなって思ったんだ」
「今日の空、綺麗だもんねー」
ルシェの視線も夜空へ向けられた。
満天の星空は高く広く、どこまでも続いていそうな迫力があり、吸い込まれてしまいそうだとルシェは思う。
「・・・ねえ、ルシェはもし流れ星を見つけたら、なんて願いを言う?」
しばらくふたりとも何も言わずに夜空を見上げていたが、フィディオは面白いことを思いついたという顔をして、ルシェに訊ねた。
「願い事?」
「うん、何かある?」
ルシェに目線を合わせるようにしゃがみこんで、彼女の顔を覗き込む。
ルシェは少し考えるように目を伏せた。
「・・・ない、かな」
「え?」
予想しなかった答えに、フィディオは驚く。
「ないのかい?」
思わず聞き返すと、ルシェは頷いた。
「・・・うん。だって、お兄ちゃんは『白い流星』でしょ。
それなら、いつでもわたしには流れ星がついてくれてるから、お願いなんてしなくていいの」
お兄ちゃんがいてくれるだけで幸せなんだぁ、とルシェははにかんだ。
フィディオはその笑顔がまともに見ることが出来なくて、勢いよく立ちあがった。
「わっ、お兄ちゃん?」
「あ、いや、ごめん、なんでもないよ!」
暗がりだから見えないとは分かっていても、照れて真っ赤な顔なんて恰好悪くて見せられない、と内心焦りながら、フィディオはルシェの手を引き、再び歩き始めた。
ふわりと優しく吹く夜風では頬の火照りはとれず、空いているほうの手で思わず片頬を覆う。
心臓がばくばくとうるさい。
しんと静かな夜の空気に響いてしまいそうで、そう気にするほどに意識してしまって余計に鼓動は早くなる。
無邪気に、純粋に、まっすぐ好意を向けてくれる隣の少女は果たしていつまでそう想ってくれるだろうか。
この先、どうかずっとそうであって欲しいと、どこかで流れているであろう流れ星に、フィディオはそっと願いをかけた。