さぁ何を書こう | ナノ
※2011七夕

「ねえ」 
  
急に呼ばれた声に不動が振り返ると、視界にうつるのは窓に手をつき雨降りの夜空を見ている小鳥遊の背中だった。 
学校帰りに待ち合わせて不動の家へ遊びに来た小鳥遊は、ここへ来てから窓の外ばかり見ていた。 

「今日、七夕なんだけど。覚えてた?」 

「・・・忘れてた」 
  
小鳥遊の問いに不動は答えると、見ていた雑誌を脇へ放って小鳥遊のとなりに並んだ。 

もともと行事ごとに疎い家庭なうえに、通う学校も男ばかりの花のないところ。 
仲間内で七夕を話題にする者もいなかったから、見事に忘れていた。 

不動も小鳥遊と同じように、窓の外を見上げる。 
ざあざあと降り続いている雨音がうるさい。 
明日は朝練無しだなと、不動はつまらなそうに呟いた。 

「短冊書いた?」 

「は?書いてるわけねーだろ」 

覚えてなかったんだぞと言えば、まあそうだよねーと小鳥遊は頷き、不動の顔を見た。 

「じゃ、書こう」 

「・・・はぁ?」 
  
何言ってんだと言わんばかりに面倒くさげに放たれた音を小鳥遊は気に止めず、おもむろにしゃがみこむとスクールバッグの中を漁り出した。 
そうして彼女が取り出したのは表紙に数学と丁寧な字で書かれたノートに、2本のカラーペン。 
  
「ほら、年に一度だし。
せっかくだから願い事、書こうよ」 
  
言いながらペンを不動に押しつけて、小鳥遊はノートの後ろのほうの白紙ページをめくると容赦無く破き始めた。 

縦に横に折り目をつけて、びりびりと、ずいぶん適当なつくりの短冊が生まれていく。 

小鳥遊の突拍子のない行動に、不動は目を見開き、何も言えずに固まった。 
おしつけられたペンをかろうじて握りしめ、しゃがんでいる小鳥遊を手持ち無沙汰に見下ろす。 

小鳥遊がこういった行事ごとに興味があったことが不動には意外だった。 
普段はだるそうに構えているくせに、気まぐれに思いつきの行動を起こしては、それに巻き込まれる。 
  
(こいつ、たまにわけわかんねーことするよなぁ) 
  
「・・・そんなに破いて、お前どんだけ書くつもりだよ」 
  
呆れながらも、どんどん作られる即席短冊に、思わず噴き出しながら不動が指摘すると、小鳥遊は不動を見上げて満足げに笑った。 
  
「願い事はひとつだけなんて、誰が決めたのよ」 

「なんだよそれ、適当なこと言いやがって」 

ばっかみてぇと悪態をつきながら、それでも不動も腰を下ろした。 
胡坐をかいて、床に散らばる短冊を1枚拾い上げる。 
  
わけがわからなくても、小鳥遊の気まぐれに振り回されるのは、別に嫌じゃないと思いながらペンのキャップを外した。 
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