このままがいい | ナノ
※夢見た終わりの続き
あのままの終わりが良い人はスルー推奨
「・・・という夢を見たんです」
話をそこで区切ると、チャンスウはお茶を一口飲んだ。
就寝前の雑談のひとつとして語られたのは、彼が昨日見た夢の話。
僕はふうんと相槌を打った。
「ずいぶんと変わった夢だね」
僕がほんとに、まるで神様みたいじゃないか。
確かにそんなふうに本気で名乗った時期もあるし、今だにそれは僕の愛称だし、必殺技にだって神の名がついているけど、所詮それはもう僕を形容する記号でしかない。
僕の美しさの象徴としてはとても気に入ってはいるけど、僕はれっきとした人の子だ。
「でも、もし本当にあなたが神なら」
湯呑みをかたりと置きながらチャンスウは唇の端を上に歪めた。
「きっと私には歳を取らせてくれないような気がします」
「それ、どういう意味?」
「あなたはとても傲慢で欲深くて面倒臭い、寂しがりな人だから。
独りになんてなりたくないでしょう?
神の力がどういったものかは知りませんが、もし人の生死まで操ることが出来るなら、あなたはそれを職務乱用しそうだ」
まるで、あなたのことなんてすべてお見通し、という調子で言うチャンスウの言葉に僕は頷くしかない。
彼は実に僕のことをよく分かっている。
それがなんとも、くすぐったいのに心地良い。
「・・・なるほど、その通りかもしれない」
皿に盛られた焼き菓子をひとつ手にとって口に放り込んだ。
うん、美味しい。
「じゃあやっぱり、僕は神様にはなれないな。本当の神様っていうのにはきっと、欲なんて無いのだろうから」
「なりたいと、思うのですか?」
今でも?と、腹の奥を探るようにじいっと細められた目でこちらを伺う彼に、いや、と笑いかける。
「まさか」
またお菓子をひとつ掴んで頬張る。
「だって、君と一緒に生きていけないなんてつまらないじゃないか」
一緒に年老いて死んでいくほうが、ずっと面白い。
同じ景色を見て、同じ食事をして、同じベッドで眠って。
サッカーをして、今みたいに言葉を交わして。
遠いいつか、そうして共に楽しかったねと笑いながらそっと眠れるならば。
もしかしたら僕は、その時には美しくなくなってしまうかもしれないけど。
いつまでも綺麗な存在でいれたらその方が良いに越したことは無いんだけど、でも、彼になら、しわくちゃになった姿を見られても嫌じゃないと思う。
そんな素晴らしく都合の良い未来を想像して、切望しているのだから、僕の欲はとても深い。
「だから僕は、人間で良かったと心底思う」
「そうですか」
「そうだよ」
大概あなたも物好きだ、と呆れたように、でもひどく機嫌良さげに言うチャンスウに、そうでもないよ、と涼しい調子を作って返事をしながら再びお菓子に手を伸ばそうとしたら、食べ過ぎですよと注意されてしまった。